「お願いがあるんだが」
「何だよ?」
「言いにくいんだ・・」
「お前に頼まれて断れるかよ・・」
「いやぁ・・そうなんだけど・・・」
「何だよ、早く言えよ」
「何も聞かずに、静岡まで迎えにきてくれ・・頼む」
「はぁ???」
「静岡って言っても広いけど・・・」
「掛川・・・あたり」
「・・てそれ、もう浜名湖のそばじゃん。」
「そう・・・
どうにか自分で帰れれば帰るつもりだけど、
最悪帰れない時はさぁ・・・・」
「はぁ・・・
まぁイイヤ。 何処へ行けばイイ?」
「・・うん、まぁ、とにかく行けるところまで行って、
帰れそうになかったら、もう一回電話するよ。
最悪、頼むm(__)m」
電話の向こうで、ヤツが頭を下げるのが解る。
困った時はお互い様。
どっかのショップじゃ、名古屋まで拾いに行ったし、掛川あたりじゃ大した事はない。
もう一回電話する・・・か
って、もう7時回ってるぜ?
雨降ってるしなぁ・・・
今日は、シゲとシゲの友達と飲む約束があった。
コッチの体調は現金な性格により、奇跡的に復活。
酒を求めてストラーダに向かうところだった。
飲んでなくてよかった・・・と思いつつ、今日は酒を飲んじゃダメな日なんだろう・・と言い聞かせつつ、
車を出して、ちょっとしたナイトドライブに出かける準備をした。
最近、ストラーダはスタッフが入れ替わり、初代メンバーはとうとう一人きりとなっている。
そして室内もなんとなく暗めのライティングとなり、ちょっとばかり大人の雰囲気を醸している。
久々に会えた人を交えての飲み会も、コッチの出遅れでなんとなく波に乗りきれず、
たった一杯のギネスでお腹がゴトゴトと音をたてる始末。
(2日間に2食しか食べなくこの日もロクに食ていないから、酒浸りは難しい体調ではあったが)
わかったよ・・
今日は飲まずに走れって事だろ。
そんな気分を抱えたまま、「シーザー」のウォッカ抜きと「スクリュードライバー」のウォッカ抜きを楽しむ。
(つまり、クラマトジュースとオレンジジュースって事)
でも、久々のストラーダ。
かっちりパスタは食べさせてもらお・・・と、
ペンネ・アラビアータ
カモネギクリームパスタ
ドライトマトと海老のパスタ
を3人でシェアしつつ楽しむ事にした。
時間はかかるが、相変わらず美味い。
ジュースも果物をその場で搾るやり方は変わらず、こっちもすこぶる美味しいのだ。
で、すっかりヤツの事を忘れかけていた頃、また電話が鳴った。
「やっぱりダメだ・・・迎えにきてくれ」
「解った〜 東名で行くから、『掛川』で降りればいいか?」
「『菊川』の方が近いかも知れない」
「まぁいいや、近く行ったら電話する。
身体は大丈夫か? 雨は?」
「何も聞かずに、早く来てくれ」
「安全運転でいくよ。 ゆっくり気長に待ってろよ〜」
時計は既に9時半を回っていた。
これから往復で400キロかぁ・・・・
東名に乗って厚木を超えた頃から、もの凄い雨が降ってきた。
ワイパーブレードをハイスピードにしても、視界が遮られる程の降り。
緩いコーナーでは車が強引に直進しようと自己主張する。
(ハイドロプレーニング現象が起きているようだ)
コレじゃ、あまり早く走れないな・・・
飛ばそうにも、廻りがゆっくり走っていて避ける事が難しい。
これでは到着は12時を過ぎるかも知れない・・・。
夜中の東名を走るのは、ちょっとばかり贅沢な行為だ。
長距離トラッカー達を刺激しないように走るのはお約束としても、
かなりのハイスピードドライブが長時間楽しめる。
この間に琵琶湖の時は、ちょっとしたトラブルの関係で友人にドライブを任せてしまったから、
ハイスピードランを楽しむ事ができなかった。
で、ちょっとばかり飢えていたのも、隠しきれない事実だったりする。
だから「こまったお願い」を「嬉しい誘い」と感じたのは仕方がなかったのだ。
本人の名誉の為に、何があったかは言わないが、
私はその日のうちに大井川を越え、国道一号線沿いのある場所でヤツを拾って帰路についた。
大雨があったためか、道は妙に空いている。
それはリミッターがきく寸前の速度で走り続けても、
何の問題も起きそうもない絶好のコースを提供してくれるのだ。
180から190の間で針は固定され、パッシングせずとも先行車は道を譲り、
ヤツ横で眠りに落ち、私は飛び去る街路灯や輝く道を目で楽しんだ。
自分がどうにも動けなくなった時「電話すれば何時でもかけつけてやる・・」と
言ってくれる人間が何人かいる。
それには「お前が俺に電話してきたら、何時でも絶対行ってやる」という言葉で返してきた。
だから今日の事は、何の苦痛もなく、極当たり前の行動で、
そして悪いけど自分自身が楽しんでいたりするが、
そんな関係を持てる事が何より嬉しくて幸せだ。
「ギネスとタラモア・デューね」
「いきなり『ボイラーメーカー』っすかぁ?」
「うん、400キロほど走ってきて興奮してるから、強制的に酔いたいんだよ」
「ふえ? 400キロって・・またぁ・・・」
「大井川の先まで行って帰ってきたんだよ」(掛川料金所のレシートを見せる)
「また、飛ばしたんでしょ?」
「大井川からだったら1時間ちょいだね」
「バイクですか?」
「ちょっと拾い者に行ったから車だよ」
「拾い物?」
「あぁ、綺麗な夜の海を見に行ってきたんだよ」(由比の海は綺麗だった)
「もう、飲んで飲んで! 話が速過ぎてついていけません(^_^;)」
興奮しきった神経を鎮静させるために寄ったロブロイで、ちょっとだけアイリッシュパブを気取る。
帰ってきた・・・という安堵と、行ってやれた・・という充実感。
それは、いつかした約束を果たした時よりも心地よく、
寒い日の布団の中より暖かかった。
250マイルドリンクは、きっと水でも美味しいんだろう・・・・けど。
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