カウンターの片隅で飲んでいた。
横の椅子に誰かが座る。
誰だろう・・と何とは無しに見れば、懐かしい顔だ。
「元気にしてた〜?」
「ボチボチね・・・」
「疲れてない? 顔色悪いよ・・・」
「毎度の事だよ」
「そうだよね・・・ いつも忙しかったね」
「どうした?」
「今日、ここに来たの偶然だと思う?」
「?」
「偶然は必然なんだよ」
「何だよ、難しい事言って」
「だって今日、自分でそう言ってたでしょ?」
「あぁ・・・そうだよ、・・そう言った。
偶然って思っている事は実際、全て必然なのさ。
要は、それに気づいて動けるか、気づかずに見過ごすか・・・ってさ」
「だからさ、顔見たくなったのさ」
「ふ〜ん」
「寂しい顔してるよ」
「うん・・・寂しいなぁ・・実際。」
「何か不安?」
「そうじゃないよ。
ただ、空いた穴が大きすぎてさ・・・」
「いつもそんな事言ってる・・・
気にしすぎだよ」
「そうかな」
「そうだよ。 俺にはいつもそう説教したじゃん」
「そうだね」
「振り返ったって、何の意味もない。
何でもいいから前に足だせって言ってたでしょ?
人には『流れ』ってモノがあってそれに乗って生きているのだから、
自分をもっと信じろっていつも言ってたじゃん・・・・」
「そんな後ろ向きかな・・・俺?」
「自分で解ってるクセに」
「根性抜けてる?」
「必然を偶然と思い込んで、逃げよう・・としてる」
「痛てぇなぁ・・・」
「自分の生き方として、全部引き受けるって決めたんでしょ?
自分の足元が見えなくても、走るって決めたんでしょ?
早く走れば走るほど、色々なモノがぶつかって穴が空くけど、
その痛みも生きている証拠だって、カッコつけたじゃない?」
「そう・・・だな。
そう・・だったな」
「何飲んでるの?」
「マーフィーズ」
「また変なの飲んで・・・」
「変じゃねぇよ、イギリスでコレばっか飲んでたんだ。
美味かったんだよ・・・・。
お前も飲むか?」
「いや、いいよ。 もう帰る・・・」
「待てよ、せっかく来たんだから・・・」
「酒、飲まないようにしてるんだって、知ってるでしょ?」
「もういいじゃん。 この間一緒に『アーリータイムズ』飲んだじゃん」
「いい。 あんまり寂しそうだったから、顔見に来ただけ。
もう帰らなくちゃ・・・・」
そう言って奴は帰っていった。
前見た時より髪は長く少しスリムになっていたが、
私に背を向けた瞬間、奴の姿は忽然と消えた・・・・。
後には誰も座っていないカウンターしか無い。
そして私は、まだ最初のビールを終えていない・・・
こんな時はどうしよう?
飲んだくれるか、切り上げるか・・・
それとも走りに行くべきか・・・
いずれにしろ心に空いた穴は、自分自身で埋めていくしか無いようだ。
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