直径1メートル近い筒状の器(鍋?)に、熱せられた油が入っている。
そしてその油は時計回りにゆっくりと流れている。
器の縁に近い所に細い金属の筒がセットされ、その反対側には網状のアーム(と言うか蠅叩き)が
同じくセットされていた。
金属の筒から、白い粘度の高そうな液体が出る・・・
と、その液体は油に落ちて、何故かドーナツ状に広がっていく。
高温の油だからすぐ、その白い液体は泡に包まれ、油の流れに乗って動いてゆく・・・
油の中の網状のアームまでソレが流れていくと、アームが上手に裏返す。
そう、これはドーナツの自動調理機なのだ。
40年近く前の事、商店街のある店にその機械があって、
それを飽きることなく眺めていた事を思い出す。
「最近のドーナツ屋は、ラーメンとか出してくれるんですよ。」
「え? ってそれ、ミスド?」
「そう。」
「ミスドって、ケッコウ中華物やるよね」
「お粥もありました(笑)」
「まだやってるんだ・・・」
「ただ・・」
「?」
「朝の6時半にラーメン食うって、凄く恥ずかしいんですよ」
「なんで〜?」
「皆、出勤前でコーヒーかなんか飲んでるでしょ。
そこで、ずるずる〜とやるわけですから、廻りの目が冷たくって〜」
「気にする事ないじゃん(爆)」
「そうですよねぇ〜! こっちにとったら晩ご飯なんですから・・・」
ロブのマスターの話を聞いていて、思い出したのは例の「自動ドーナツ調理器」だった。
ドーナツなんて高価なお菓子が滅多に買えない家に育った私は、その味なんて知るわけもなかった。
だから、ドーナツが欲しくてその機械を見ていたのではなく、その動きの面白さに見入っていただけだったが、
母親にしてみれば食べさせてやりたい・・と思ったのだろう。
ある時、箱に何個か詰まったドーナツを買ってきてくれた事があった。
家族揃ってそれを食べてみたが、砂糖がまぶされてひたすら甘く、ボソボソとした食感で、
しかも揚げた油がしつこい感じで、美味しい・・・と口だけで言うのが精一杯だった。
しかし、残す・・・なんて贅沢な事はできない。
だから、ひたすら皆で食べ続けたのだが、その結果、ドーナツは無理してまで食べる物じゃない・・・
という意識が芽生えたのは言うまでもない。
20年も前の事になるが、当時、深夜に食事のできる所は非常に少なかった。
ファミレスは11時で閉める店が多かったし、その数はとても少なかった。
コンビニも11時には閉まるし、深夜営業の店自体がとても少なかったのだ。
だから、夜中でも食べられる店は、「吉野家」と「ダンキンドーナツ」位の物。
でも、ドーナツを食べる位なら牛丼の方が良い・・と思っていた私は、深夜のドーナツ屋なんて
絶対に入ろうとはしなかったのだ(爆)
しかし、ある時「ミスタードーナツ」にどうしても行きたい・・という女性に連れられて、
初めてのドーナツ屋体験を果たしてしまった。
何だよ〜これ?
ドーナッツじゃないぞ・・・ハッキリ言ってケーキじゃん(^_^;)
それに、ドーナツ以外にもたくさん食べられそうな物があるじゃないか・・・
ドーナッと言えば、茶色く濁った油で揚げられたボソボソの物・・という概念は、
たった一回のミスド詣でで跡形もなく消え去った。(でも、甘い物だから、大好物ってわけじゃない)
ドーナツ屋でラーメンを食べるのがどうか・・というのは、
ミスドの方針の問題だから知ったこっちゃない。
ただ、客につきあって飲むマスターにしてみれば、
寝る前に無性にラーメンが食いたくなる・・という気持を
その時間に確実に食べられる場所で収めたかっただけだろう。
飲んだ後は、無性にラーメンが食べたくなる事がよくあるが、何故なんだろう・・・
そんな事を考えていた私は、気がついたら「風々ラーメン」のカウンターに座っていた(^_^;)
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