ステップを装着したついでに、ちょっと早めだがオイル交換もしてもらう。
もう少しでナラシが終わるから、少しずつ回転を上げるためにもその方が良い・・・と。
会社から帰って着替えて、雑巾に水を含ませて駐車場に向かう。
バイクのシートをめくると、案の定タンクの上は猫の足跡+抜け毛。
いいさ、気にしない。
手頃なテントとして貸してやる。
こうやって雑巾で拭けば良いことさ(^_^)
シートを畳んでロックを外し、ニュートラルを出す。
軽くしかし素早くアクセルを煽ってセルを回せば、
思いっ切り歯切れが良い・・・いや爆発に近いような排気音が轟く。
シートやロックを車にしまい、暖機運転のためにしばし佇む。
この瞬間が、一番気持が盛り上がる時・・・だと、いつも感じている。
ライダーにとって儀式にも近い諸動作をこなし、バイクにまたがってシールドを下げ、
ローにシフトしてクラッチを繋いだ。
スーっと興奮が冷め、意識が覚醒していく。
身体に生えた二本のタイヤの感触を確認しながら、腹ぺこのマシンに燃料を入れに行く。
新生XJRのオーバー100マイルは、どうしても第3京浜が良い。
そう思うから、今日は東京方向へ向かう事にする。
レッドゾーンが7000回転の2TGは、6000からの1000回転だけ特別な共鳴音を発する。
それはソレックスの吸気音。
排気音なんて掻き消す位の音量は聞く者の心を揺さぶるように興奮させる。
その音をいっぱい感じたいから、エアクリーナーをソレックスごとに装着する
ラムフロータイプに付け替えていた。
それはまだ、ラリー車に改造される前のTE47トレノに乗っていた時の事。
排ガス規制前の車には、当たり前に200オーバーのメーターが装着され、
リミッターなんて無粋な物は存在しなかった。
「ねぇ、このメーター振り切るまで、スピード出るの?」
「わかんない。 出した事無いし・・」
「根性もないし〜」
「お金もないし・・・・」
「カッコ悪いし〜ぃ」
瞬時に3速へシフトダウンし、アクセルを床ま践んだ。
クゥオー・・という独特の乾いた吸気音で、車内は会話が難しい位に騒々しくなった。
「私、この音が好き!」
「俺もだぁ!」
7000回転でキッチリシフトアップし4速から5速へアップした頃、
捕まったら一発免停では済みそうにない速度に達していた。
スピードはジリジリとしか上がっていかない。
深夜とは言え、他にも走行している車両はまだそこそこいる。
ドコにパトカーがいるかわからない・・という恐怖と、Hタイプのタイヤが保つかどうかの不安・・・。
そしていつかスピードメーターの針は200キロを越え、210キロ近くを指していた。
第3京浜を横浜に向かう途中、まだ都筑インターなんて無かった頃、
ちょうどその手前辺りで、そのスピードを体感したのは21歳の頃だったと記憶している。
それ以来、ニューマシンの現実的最高速トライは、いつも第3京浜で行ってきた。
東京まで辿り着き、くるっと回って環八に出る。
派手な背中を意識してか、つかず離れずのバイクが2台。
65マイルまでの加速では振り切れるわけもないが、あとちょっとの我慢。
もう一回オドメーターが動けば、ナラシは完了となる。
そして田園調布辺りを通り過ぎた頃、一応ナラシ運転終了の距離がきた。
気がつけば3台が斜め後ろや横に並ぶ。
それじゃ、ジワジワといかせていただきますかぁ・・・
8000回転まで引っ張ってシフトアップ。
一段と加速が良くなった事が解る。
9000回転まで引っ張ってシフトアップ。
こりゃ・・・・気持いいぞ。
10000回転まで引っ張ってシフトアップ。
あれ? 誰もついて来ないじゃん・・・(^_^;)
じゃ、第3京浜に入ったら、とにかく12000回転まで回してみよう。
(もちろん、いきなりガバッとはいけないが)
トルクの出方は、カムが変わってないので変化ないが、全般的に太くなった事はすぐわかる。
やっぱりこれくらいトルクが無いとねぇ・・・と思いながら、オーバーレブを気にしつつ回転を上げてみた。
さすがは新品のヘッド&ピストン。
どことなくグズついていたスピードのノリは何処へやら・・で、
すんなりと12000回転まで回ってしまった。
Tシャツにカットオフ、ジーンズにエンジニアブーツ、ジェットヘルにグローブのスタイルは、
ちょっとばかり危険な格好である事は承知している。
だけど、体中で風を感じ、空気を押しのける力を直に味わいたかった。
だからこそ、このスタイルに着替えたのだ。
あっという間に第3京浜の走行は終了し
1国へ下りてくると、腕がむずむずする。
それは、オーバー100マイルの風を直に受けていた証拠。
それは、生きている触感。
これはきっと、バイク走行の喜びの一つ。
そして、バイクでしか味わえない事の一つ。
「何だか疲れてますね・・・。 何杯飲んだんですか?」
「ちょっと高速ナラシをしてたんだよ」
「え・・バイク?・・・走ってた?」
「そう」
「何かだれてません?」
「暑いんだよ〜」
「バイクだと風浴びるから涼しいでしょ?」
「走ってる時はね。
でも高速で飛ばしてると身体がその寒さに慣れるから、停まるとスッゴイ暑くなるんだ」
「へ〜、そうなんですか・・・っともうビール飲んじゃったんですね」
「なんかまだ汗が出るぐらい暑いから、汗引くやつ作って」
「んじゃ、キリキリに冷やしたドライマティーニは?」
「・・・いい・けど、そんなの飲んだら寝ちゃうよ、俺。
いいの?それでも・・・」
「ダメ(^_^;) じゃ、ジントニックにしましょう」
「のった〜」
冷えたグラスが汗をかく間も与えずにライムの効いたジントニックを干すと、
やっと全身に巡っていた緊張感がほぐれてきた。
ここのところ続けてきた深夜のナラシ運転は、ここ「RobRoy」が帰着点になっている。
適度に減った腹を満たすのも、コッチの顔色で飲物をアレンジしてくれるのも、
緊張から解けきらない身体と神経を、弛緩させるのにはとても有り難い事。
だから今日も飲んだくれる予定だが、
飲み屋のハシゴよりはよっぽど健全かも知れない。
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