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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

間抜け

夜、日差しが落ちて涼しくなった時間、バイクのシートカバーを外す。
夜目にも変だな・・・と感じるくらい汚れたタンクが、これから走り出す気分を害してくれる。
何だこりゃ・・・とよく見ると、猫の足跡と毛がビッシリとタンクに貼りついているじゃないか・・・。

シートをかけずに置いておくとパーツを取られそうなので新しいシートを買ったのだが、
少しだけそのサイズが小さかった。
その結果、ミラーからテールカウルにかけて一直線にシートが張り、テントのようにタンクの上に空間ができる。
カバーはピッタリとしているので、エンジンの脇からよじ登るのも難しい・・と思うのだが、
それでも猫はよじ登ったらしく、その空間に潜り込んでいた跡は凄まじい物だった。

スタンドでガスを入れる時、あまりの汚さに呆れて雑巾を借りて拭いたのだが、
何だか液状のこびりついた物から猫らしい匂いが立ち上って、気分の萎える事・・・。

しかし、ガスを満タンにして走り出せば、そんな気分もすぐ晴れる。
まとわりつく湿気を帯びた熱風も、エンジンから放出される熱気も気にならない。

これほどバイクは気持ちよかったっけ?・・・と自問しながら、6000回転を守って走り続けた。


しかし、片側3車線の真ん中のレーンを65マイルで走行している時、そんな気分は吹っ飛んだ。

緩い下りの下りきった辺りにある交差点に差し掛かる。

対向車は普通に存在する程度の混み方で、私はそれを漫然と見ていた。
いや、エンジンのトルク感を味わいながら、夜風に酔っていたのかもしれない。

停止線の手前10メートルも無い辺りで、対向車が突然右折を始めたのを確認した。

その車は、右折帯でタイミングをはかっていたのではなく、フ〜ッと交差点に辿り着いてそのまま右折した。
つまり、私のバイクが目に入っていなかったか、その位置を見誤ったかのどちらかだろう。

今のスピードと車両までの距離から即時に判断したのは「衝突する」という現実。
そう考える前に前後ブレーキをかけていたのだが、シフトダウンは回転を上げたくないからしなかった。
(こんな状況なのにまだエンジンの事を考えているのが、バカな証拠)

荷重がフロントに集中し後輪が左に迫り出すので少し補正を加えると今度は右に大きく振れ出す。
このままじゃ、右折車両の方へ向かってしまうのでもう一回修正を加えるとさらに大きく左に振れだした。

あ〜こりゃぶつかるなぁ・・・
どうやってぶつけようかな・・・
真っ直ぐ入るか、このまま車体を横にして突っ込むか・・・
また修理かよ・・・・
ナラシ中に再入院ってか?

普通、事故を起こす時は、時間の流れが凄く遅くなるもの。
色々な事を考え、色々な動作を試し、そしてぶつかる瞬間までしっかり見続けるものだ・・と
何回か事故を経験した記憶に刻まれている。

しかしこの時は、その時間の流れがあまり変わらずに物事が進行していくのだ。

不思議だな・・と思いながら、想像以上に早くぶつかるだろう対象物に近付いていくので、
衝突に対応する姿勢や車体の向きを作り上げる自信すら失ってしまう・・・。

ええい・・と右を向いているバイクをさらに右側に倒しカウンターを切る。
そして運良く右方向に進路が変わったのを確認し回避運転に挑戦した。

カッシャ〜ン という軽い音。
同時に左足甲に痛みを感じる。

凄い勢いで左を向こうとするバイクを立て直そうと、逆にカウンターを切る・・・。

バイクは一度身震いをして、次の瞬間普通に走行していた。


この野郎!・・と後ろに振り向くと、強引な右折をかました車両は消えている。

逃げやがったな・・・・
と怒りが湧いたところで、ステップが無い事に気付く。

何だよ・・・・、ステップ無くなっちゃったじゃんよぉ・・・・


右直事故は、バイクが起こす事故としては典型的なパターン。
だから、ライダーはいつでもその可能性を考えて交差点に進入するもの。

なのに私は、漫然としたまま交差点に進入しようとし、
私の車両に気付かぬ右折車とのダンスを踊らされた。

間抜け・・・だ。
これじゃ素人だ・・・。

身体が覚えていた操車技術で切り抜けられたが、
ほんの2センチほど深く接触したり、リーンさせないで接触したら、
間違いなく対向車線に吹っ飛ばされていたはずだ。

その事実は、否応もなく自分自身を責め立てる。


いつもよりゆっくり走っていたから、どうにか無転倒で切り抜けられた。
いつもよりゆっくり走っていたから、他の車両の動きが予測しにくかった。
いつもよりゆっくり走っていたから、強引に右折をかまされた?
いつもよりゆっくり走っていたから、気が緩んで散漫になった?


慣れない事はするべきではない・・・

が、それは許されない行為である以上、本人の得手不得手を問わずゆっくり走る事はいくらでもある。
そんな時こそ、気合いと自制で事故を避けねばならないのに、すっかり忘れてしまったのだ。
流して走る事は、安全なように錯覚するからこそ危険だ・・と考える事すら忘れていたのだ。


一人で暮らしていると、帰宅しなくても誰も心配しない。
だから路上でのたれ死んだら、会社の人間が異変に気がつくまで行方不明となってしまうだろう。

一人きりで生きていくって事はとても自由で楽な事だが、
とても寂しく厳しい事でもあるんだな・・・と思い知る。


右直事故を誘発した車両は逃走し、左手の親指と左足の甲をほんの少しだけ痛め、
ステップを根元からもぎ取られた代償は、ライダーとして復活するために自ら支払う教習代と化した。

安いもんだ・・・・・と、思っている。

 
 
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