「ちょっと裏へ行こうか・・・」
と大将が言う。
それは何か飲みながら話そう・・という事で、クラブハウスでは話したくない「話」がある意味もあって、
そこへ誘われる事はクラブと関係の深い証明でもあったりした。
勿論これはもう随分前の話で、ショップが移転する前の事。
クラブハウスは常駐するメンバーも多く客人も来ていたりするから、
個別にメンバーに指示を出す場合、大将はそうやって河岸を変えていた。
目指す店は、ショップ脇の細い通路を抜けて裏通りに出ると在る。
ケンタウロスに訪れたライダーの何人かは、大将とこの店に入った事があるはずだ。
「ミントンハウス 」
横浜市中区山下町277
営業時間14:00〜0:00 隔週水曜休み
045-662-2586
ジャズ喫茶としては老舗入るだろうその店は、木造のちょっと無骨な喫茶店。
LPレコードを回すスタイルも今では珍しくなってきたが、
ジャズ喫茶として有名な「ちぐさ」がある横浜にはあって当たり前の店だろう。
(マンガ「ケンタウロスの伝説」にも登場している)
大概、他愛の無い話に終始する大将の話だが、ミントンで話をする時は何か事がある時の記憶が多い。
誰かを手伝え・・というような話だったり、仕事の方向性を指示されたり・・・・。
店内に流れる渋いジャズも耳に入らないほど、話の内容が濃い事は毎度の事だから、
何回も行ったその店で聞いた名曲のイメージはどう頑張っても湧いてこなかったりする。
カウンターとテーブル席があって、全身ジャズファン・・みたいな客が居る中、
大将をはじめとした看板を背負ったゴツイ野郎共がたむろっている・・・。
暗い店内にエンジニアブーツの金具とベルトにつけた金属製の何かが光り、
カットオフにはお馴染みのカラーが見えたらどうだろう。
そいつらは暗いのにサングラスをしていたり、長髪をバンダナでまとめていたり・・と
普通の職業に就いているようには見えない連中なのだ。
これって多分、営業妨害に近い。
しかし、オイドン(マスター)は態度一つ変えず、媚びもせず、我々を歓待してくれた。
何故、突然「ミントンハウス」を思い出したか・・と言えば、崎陽軒のCMを見たからだ。
(「途中下車の旅」日テレ・土曜 朝9時30分OAに露出していた)
変わらない味・・という事をアピールするために、変わっていない店として、横浜らしい店として、
「ミントンハウス」が取り上げられたらしい。(というのは、あまりちゃんと見ていないから)
店の奥から道路の方を眺めていた、その風景が突然テレビに映し出された時、
思わず「おぉ〜」叫んだだけでなく、瞬間的にその空気が蘇ってボ〜ッとしてしてしまったのだ。
ギラギラとした日々
明日なんて全然見えない不安感
老いる事なんて考えなかった傲慢さ
誰にも頭を下げず、誰にも笑いかけないイキガリ
そんな意識の奥底に隠れていた記憶が蘇る・・・。
最近、丸くなったよなぁ・・・と思うのは、そんな時代があったからこそ、の事。
そう気がつける事も年齢の為せる技だが、自分の道が間違っていなかったと感じられて嬉しくなる。
その時その時は「辛く悲しい事ばかりだ・・・」と自分の人生を恨んだ事もあったが、
楽しい事はより楽しく貪欲に味わえるのは、正反対の環境を味わってきたからの事。
そう気付いてから、私は優しい顔をするようになった・・と言われるようになれた。
たった2センチのズレが「生き死に」を分ける事もある。
そしてその意味が解っている事の重さは、生きてきた証なのだ。
何度路上に転がったろう・・・。
何度「コレで死ぬだろう・・」と思った事か。
そんな下手クソは未だに生きている。
そして、毎日を感じている。
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