交差点で信号待ちしていると、後ろからドロドロと腹に響く排気音を撒き散らすマシンが追いついて来た。
何だぁ〜とふり返るとV-maxのチューン車が見える。
アロハシャツに半キャップ、夜中なのにキャッツアイをかけている。
オイオイ、随分と軽い格好だね。
マシンの音とライダーファッションのギャップが、彼の若さを物語るようだ。
コッチの背中とマシンをジロジロ見ているが、無視。
きっとスタートダッシュでスカッと抜かれてオシマイだ。
(ナラシ中じゃなければ、ついていってすり抜けで千切っちゃうんだけど(^_^;))
青!
4000rpmでクラッチを繋ぎ、タコメーターの針が5000〜6000rpmの間を5回跳ねた。
あれぇ・・・ついてこない・・・。
見かけ倒しか・・・。
ツマラン・・・
だからあの格好でもイイわけね・・・・
夜の国道1号を独り占めして、65マイルで巡航する。
通行区分帯上のダンスも、こんな速度じゃ楽な物。
しかし、梅雨明けと台風のおかげで蒸し暑い事、この上ない。
おまけにポツポツとシールドに雨粒が着きだした。
反町に着いたら、「RobRoy」に行って、生ビールを一気飲みする事にしよう。
「バイクにはガソリンを、ライダーにはビールを」
だよなぁ(爆)
夜中のロブは、最近静かだ。
一時期の我慢できない騒々しさは何処へやら・・で、
こっちとしては落ち着けてありがたい。
ライディングで敏感になった感覚や感情を泡立つビールでなだめていると、
マスターがニヤッと笑ってこう言った。
「そろそろ、開けましょうよ。
誰もが口開けを待っているんですよ(^_^)」
彼の顔が向いた先にあるのは「マッカラン34年・1966」(ゴードン&マクファイル)だった。
「んっじゃ、いきますかぁ」
小振りのワイングラスに注がれたマッカランは、
ちょとやそっとじゃ起きそうもない穏やかさを見せている。
まずは香り。
穏やかで、甘くて、マッカランらしいシェリー樽の香りはあまり感じられない。
一口舐める。
マッカラン25年をさらに枯らし、少し苦みを足したような味だが、これも見事に穏やかで素っ気ない。
じゃぁ、待ちますか・・・・。
振動で少し痺れが残っている指をさすりながら、濡れて光る窓の外を覗く。
それは、街路灯の光で姿を現す雨だけが主役の風景。
これじゃ、今日の満月は無理だな・・・
新品のヘッドとピストンのおかげで、想像以上に乗りやすくなったマシン。
ナラシ運転はあと200キロもいらない。
ちょっと箱根まで行って帰ってくればOKだが、
65マイル走行も楽しいもんだ・・と感じているから、
ガツガツとナラシを終えて高回転ナラシに移る必要もないなぁ・・・と。
何故なら、ゆっくり走る事(と言っても程度問題だが)が、楽しくて仕方ないのだ。
解っている事。
知っている事。
その記憶は、再体験によって熟成される物らしい。
こんなに長い間バイクに乗ってきたのに、今また新たな感覚を得て少しばかりたじろいでもいる。
ただ、ゆっくり走ると危険が増すような気もするから、自分にとって楽な速度はあるのだ・・とも気付く。
そんな事をぼ〜っと考えながらグラスを回していると、寝込んでいたモルトが目を覚ました。
刺激的な香りが全部飛び、甘さやコクに繋がる香りが花開いてくる。
チョコレートのような感じ、いやもう少し薄い・・・。
味は乱暴な刺激は姿を消し、柔らかく円やかな感触と甘み、ほんの少しの苦み、
オレンジのようなほんの少しの酸味・・・・。
25年に似た感じだが、それよりも重い。
しかし、加水されている分、深みが無い。
長いフィニッシュは息をするたびに姿を変え、費やした時間の分だけ色々な姿を見せようとした。
「たった一杯で1時間は過ごせそう・・・」と呟くと、マスターが、「最後の一杯になりますね」と返す。
しかし天の邪鬼な私は、その後にイタリア向けのマッカラン7年をオーダーした。
笑った。
思いっ切り笑えた。
これ・・・まだ麦のままだ・・・・・
最初に飲むとしっかりマッカランの味がする若いモルトが、ただの麦汁のように感じる。
「これじゃ、ソフトランディングにならないよ〜」とボヤキながら、バーボンを飲むように煽った。
どうやら今日は、自分の中の常識が覆される日、らしい。
|