「ようこそ」と満面の笑みで迎えられた友人は、
何故そんなに歓迎されるのか解らず、少し怯えたような顔をした。
今日は、変則(いつもは第2火曜にやっている)だが「壁の会」。
例によってシリウス〜ロイヤルアスコットのコースを辿るモルト馬鹿の会があった。
スターターとしてそれぞれのモルトを嘗めた後、ロイヤルアスコットに下りた時、
彼に投げかけられたその笑みにはワケがあった。
例のグレンモレンジ1980カスクを彼もオーダーしていたから、
その貴重かつ高価なボトルを「入れてください」という体制でスタッフが待っていたわけだ。
勿論、その値段が解っていてオーダーしたのだから彼にとっては何でも無い事。
「ん・・じゃ、出して」と言う声と同時に出てきたボトルは、一寸見そっけない感じがしてしまう。
そこら辺がモレンンジらしい・・とこだと思っている。
彼のボトルについていた通しナンバーは263、私のは277で似たようなもの。
でも、モルトはオフィシャル物でもボトルによって味が違う事はよくあるので、
どんな違いがあるか・・・にとても興味があったのだがそこは友達の酒、
彼が飲んだ後飲ませてもらう事にしよう。
55.6%のアルコールだから、飲む順番を考える。
最初に飲んで、後はどんどん軽くしていく・・か、徐々に重い物へと上げていくか・・・。
ワインだったら後者のやり方だが、モルトの場合前者のやり方も悪くない。
グレンフィディックのカスクを勧められて飲んだ事があったが、
その重厚なボディと濃い味に感激し杯を重ねた後、普通のはどうだったっけ・・・と12年を試した。
すると、さっきのしっかりとした味や香りが蘇ってきて、「なるほどフィディックだ・・」とビックリさせられた。
酔いが回るにつれ味が解らなくなるのだが、こういうソフトランディングも楽しいんだ・・と
目から鱗が落ちる気持にさせられる。
以来、マッカランの25→レゼルバ→7年(イタリア物)なんて楽しみ方をするようにもなった。
今日の彼は後者を選び、ダルウィニーからドロナックを経ていよいよ口開けとなる。
飲むまでその価値は解らないよ・・と伝えていたが、実際に一口飲んだ後の彼の顔は、
まさに今日一番の幸せ者・・といった恍惚の表情が浮かんでいる。
初めて飲んだ時、「こんなのモレンジじゃない!」と思わず叫びそうになった位、
素晴らしい味と個性に溢れた印象があったから、きっと今の彼はその「嬉しい違い」に酔っているはずだ。
もちろんコッチも277をストレートで飲んでいるからもう・・・(^_^;)
今日はいつものように色々語る事もせずに味巡りをするような飲み方をしていたが、
トドメの峠が高すぎたらしい。
カスクの強さと奥の深さにしばし言葉を失い、そしてその変化の幅を楽しんでいく。
そして、その味を受け止める事に慣れた頃、試しに・・とグラスを交換してみた。
「え〜!? これ、同じモルトじゃないんじゃない?」
と声が二人同時に出る程、違う。
20分ほどエアリングした263は、277に比べて柑橘系を思わせる味と香りが遙かに強い。
複雑さは277の方があるような気がするが、美味さについては甲乙つけがたい。
しかし、3つの樽をマリッジさせて744本限定で瓶詰めした酒が、
瓶ごとにこんなに変化がある・・という事はどういう事なのだろう・・・・。
しかしこれだから、モルトは止められない。
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