「グレンモレンジ」というモルトは、実に色々な種類がある。
ポートウッド、シェリーウッド、マディラウッドといった樽の違いから、
特別に良くできた年のビンテージの入った限定品やカスクストレングスの物までとても多彩で、
全てに出会う事は非常に難しくなっているのも事実だが・・・。
日本酒メーカーでも色々なチャレンジをするメーカーは多いが、
「十四代」は「しおり法」(日本酒の古式製法)で作る・・なんてチャレンジまでしている・・と聞けば、
酒を醸す世界はまだまだ捨てた物ではない・・・と単純に嬉しく思っている。
モレンジの21年物の限定品で・・・とロブロイのマスターに話したら、
知らない酒が有るのはイヤだ・・と考える彼の事、しっかり酒屋でチェックしてきたらしい。
世界中で1000本も作らない・・というそれが「カスクストレングス」だという事も知らなかった私は、
モレンジにしては高いよなぁ・・・と単純に考えていたが、想像以上のコストだと聞いて少しばかりたじろいだ。
マスターは、店用に一本しかないソレを購入しようとして原価計算をしたのだが、
軽く1ショット5000円を越えたら店では商売にならない・・と断念し、
「1974年製グレンモレンジ22年」を仕込んできた・・と言った。
「そりゃ、飲めって事だよね?」
「もちろん(^_^)」
さすがに20年以上寝ている酒だから、目覚めは遅く角は取れ、
そしてモレンジらしい美味しさだけが際だっている。
「何だ・・コレを薦めてくれればいいのになぁ・・」とボヤキたくなる程の美味しさだが、
尚更21年のカスクに期待が高まるのは、単なるモルト好きではすまないバカ故の事。
元々、マッカランよりモレンジやリベットの方が好きだったから、モレンジにはつい贅沢をしたくなるのだが、
ちょっとばかし大バカ野郎になってしまったかも・・と反省しつつ、ゆっくり22年を味わった。
「・・で、次、どうしよう?」
と相談するのはいつもの事だが、さすがにマスターも次のイメージが無かったらしく、
悩んだ末に出してきたのは、「フィラガン12年」のカスク(60%)だった。
これも、もう無くなるだろう・・と噂されるモルトだが、60%の強さを感じさせない軽やかさと
しっかりとしたボディに、アイラ系のスパイシーさが見え隠れする優れ物。
カリラを少し重くした感じ・・・に近いかどうか・・といった感じだが、ゆったりと楽しめる酒だった。
今日は久々に身体を動かして疲れていたから、ガッチリ飲んでドスッと寝てしまいたい。
だから60%なんかに手を出したのだが、感情的には火がついてしまったのは事実だ。
コレ一杯で帰ろう・・・と思っていたのに、もう一杯・・と思ったら、次はもっと悩む事になった。
こんな時はグラッパやカルバドスも良いのだが、どうせならモルトで締めてしまいたい。
で、かねてから飲んだ事の無かった「バルベニー12年・ダブルウッド」を試す事にする。
「バルベニー15年シングルバレル」を誕生日に一本もらって飲んで以来、
その味に取り付かれたままバルベニーはソレしか飲んで来なかった。
だから、12年物のダブルウッドは製法が違う事も気になっている、味わいたいモルトだったのだ。
オーク&シェリー樽で作られる12年物は専用の作り方で出されてしまうわけだが、
どうしてシングルバレルで12年物を出さないかは良く解らないネ・・・とマスターと話しながら飲む。
15年に比べると軽く、飲みやすく、そして若い分ノートの変化は少なく感じる。
やっぱり15年の方が数段美味しく感じるな・・・と思いながらも、骨太な感じを楽しんだ。
それにしても随分と違いがあるものだな・・・と思うほど両者は違う顔を持つ。
ここまで変えるにはワケがあるはずだ、と思いながら派手すぎないシェリーの香りを楽しんでいたら、
ちょっと離れた所で飲んでいた男性がマスターにこう呟いた。
「マスター・・・、この店って凄くたくさんボトルがありますげど、採算取れてます?」
「エッ・・・、取れてますよぉ、勿論」
「いや、私経理やってんですけど、在庫率が・・・・」
仕事の話は持ち出すなって!・・・と思いながら、「在庫率」という言葉でフッと気がついた。
バルベニーは最初全部の樽をオークで仕込んで、ある一定の期間熟成した後にテイスティングし、
その後できの良い長期熟成に耐えるものだけをそのまま熟成し(シングルバレル用)、
熟成しても化けない物をシェリー樽に移してダブルウッド用として出しているのではないだろうか?・・・と。
在庫を丁寧に使い切る上での知恵が生んだ物だとすれば、
わざわざ専用の作り方をしているのではなく、
求める味に近づけるための方法を樽の個性に合わせて取っているだけかも知れない。
造り酒屋も商売でやっているのだから・・・と思えば、想像の域を超えていないがあり得そうな事だろう。
こんな想像を巡らせる事も、酒の楽しみの一つ。
この、どうでも良い頭の遊びが、また酒を美味しくしてくれるようだ。
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