何時呼ばれるか解らない状況というのは、精神的に堪えるもの。
解っている以上に影響するものだと思い知らされたのは、酒の味だった。
仕事の打ち合わせがあって出かけた時、携帯を忘れてしまう。
それは、常に気にしていた問題が、昨日の夜中に一応の決着をみた・・・事を反映している。
仕方が無い・・と思えれば「開き直れる」はずだったが、日曜から恐ろしく酒に弱くなっていた。
いつもなら飲んだウチに入らない量で、気持ち悪くなる。
月曜日に友達と会った時は、1合半でもう飲めなくなってしまった。
そして昨日はビール一杯で酔いが回ってしまう・・・。
真剣に体調を崩した・・かと悩んだが、平均睡眠時間が3時間を切っていたから、
睡眠不足のためだろうと気にしないようにしていた。
で、今日は、看板持ちの仲間からの依頼があって打ち合わせのために「KOTOHOGI」へ行ったが、
その時、当たり前にビールを飲んで気がついた。
全然美味い・・・・・と。
今日は飲んでも大丈夫。
今日は潰れても大丈夫。
今日は気にしなくても大丈夫・・・
と感じた途端にコレだった(^_^;)
同じ酒なのに、飲む場所によって味が違うのも、一緒に飲む人の違いによって味が変わるのも、
人間の感覚がいかに感情によって左右されるか・・・という事を端的に表している。
充分に解っていた事でも、こうやって自分で感じてしまえば、やっぱり驚きに値する。
「KOTOHOGI」に入ってすぐ、店長がわざわざテーブルまで挨拶に来た。
特に何かを話した事の無い関係ではあるが、彼は私のスタイルに何かを感じたのかも知れない。
客を連れて来たから、気に入ってくれた・・・と安堵したのかも知れない。
でも、こうやって彼はこの店に客を呼んでいるのだな・・・と理解する。
東京っぽい店なのに、年齢的にもスタイル的にも客層とは違う私を歓迎するのは、
この横浜でやっていく上でのポイントの一つであるし、
またそういう扱いを喜ぶ人間にとっての居心地の良さを演出するのに役立つだろう。
わざわざ奥から出てきて挨拶してくれるだけで、料理の味が変わる・・・と思ったのは、
前回も頼んだ「生春巻き」を食べた時だった。
味自体はそう変わってはいないのだが、心が美味しい・・と呟いてしまう。
勿論、仲間と一緒に食事をしている事も大きいし、問題が軽くなって気持が楽になっている事もある。
しかし「もてなしの心」が振りかけられた料理は、
変化していない味だと解っているのに美味しく感じるものらしい・・・。
シビアな打ち合わせをしながらビールを飲み干し、
グラスの赤ワインを干しても、酔いは全然回らない。
なんだか現金なヤツだな・・・と自嘲する。
今回は、ただのペペロンチーノを頼んでみたが(勿論メニューには無い)、
期待通りの素晴らしいモノになっていた。
ほんのちょっとのワガママを聞いてくれる事も嬉しいが、この店の塩はなかなかの味だから、
シンプル極まりないペペロンチーノが美味しいと想像できたのだ。
だが、ここのシェフのやり方元々メニューに載っている「シラスのペペロンチーノ」をベースに
シラス抜きのソレを作り上げてきた。
ただのペペロンチーノには有り得ないシラスの香りが少し混じっているから、
茹で汁に少しシラスの塩気を足した事が想像できた。
ペペロンチーノに魚系の香りをつける所は結構多く、オリーブオイルにアンチョビを混ぜるのは常套手段として有名だから、
その代わりにシラスの茹で汁を使うのも海塩を使うのなら相性がよくて美味しいだろう。
前に食べた時は、茹でたシラスの柔らかさもカリカリに揚げたシラスもパスタの感触とは異質に感じたから、
そうやって頼んでみたのが正にビンゴ!だったわけだ。
果たして、初めての「KOTOHOGI」を味わった二人には、美味しい店だと感じてもらえたようだ。
(だいぶ、私の中でのランクが上がったのは言うまでもない(^_^;))
次の約束があって彼等と別れた後、待ち合わせしたバーでマッカランを飲んでみる。
なんか・・・メチャクチャ美味しく感じる。
こんなに美味かったっけ・・・と自問する位に、美味しく感じてしまうのだ。
そんな時、隣で飲んでるカップルの戯言が聞こえてくる。
「客先に謝りに行った後、部長に無理矢理飲みに連れてかれて参ったよ〜」
「ホントにぃ〜?」
「嘘じゃないって。 知ってんだろ、ウチの部長」
「しぃ〜らないっ」
「あの年代って、絶対飲み方変だよ。 飲みゃ、いいって思ってんだ・・・」
「約束がありますからって、断ってくれば良かったのにぃ・・・」
「一緒に飲みに行かないと、ネチネチやられるからヤなんだよ」
「そっか〜・・・。 でもその割りには酔ってない・・よね?」
「ひたすらビールばっかり飲んでたんだよ。
水割りなんか美味しくもないし、一々作ってやんなきゃなんないから面倒だろ?
ず〜と説教されて、昔の自慢話を聞かされて・・・。
その上『何か芸をやれ〜』とか言われて切れそうになったよ」
「やったの?」
「そん時、携帯鳴ったから逃げて来れた。
でも、不思議だよなぁ・・・」
「何がぁ?」
「すっげぇビール不味くて、おまけに頭痛くなるくらい気持ち悪かったんだよ。
だから部長も『帰れ』と言った気がしたし、もう飲めねって思ってたのに・・」
「?」
「お前と飲んでると幾らでも飲める」
あっそ(^_^;)
聞くとは無しに聞いていたが、皆同じように酒の変化に気付いているらしい。
結局、気を許せる誰かと一緒に飲んだり食べたりする事は、最高の調味料なのだろう。
そんな事実を噛みしめながらゆっくり酒を味わう時間が持てる事は、
今日の私にはとても有り難い。
やっとゆっくり寝られそうだ。
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