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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

河原にて

背中が痛い。
妙に固いモノの上に寝ているようだ・・・・。
えっ? その違和感は半端じゃない。
目を開けて驚いた。
私は、河原で寝ていたのだ。

石の上に寝ていたら身体が痛くなるのは当たり前。
なんでこんな所で寝込んでしまったのだろう・・・と、しばし記憶を呼び起こそうとした。

「ねぇ、おじさん。 お願いがあるんだけど?」

突然、後で声がする。
振り向いてみれば、10才位の男の子が立っていた。

「うん? どうした?」

「僕一人じゃできない事があって・・・・」

彼が向いた方向には大きく平たい石とそれよりちょっと小さめの丸い石が、並んで転がっていた。

この子はどこの子だろう。
青いTシャツに半ズボン、運動靴はナイキだが随分汚れている。
日焼けした顔に短い髪の毛は、たぶん10才位に見える彼に似合っていた。

「あの石を、横の大きな石の上にのせたいんだ。 一人じゃできないから手伝って。」

彼が指さしたのは丸い石。
私から見れば持ち上げられそうな大きさに見えるが、彼の手では無理だろう。
しかしこんな河原で、一人きりで遊んでいるのはちょっと変だ。
親は何をしているんだろう・・・・か。

あたりを見回すが、彼の家族らしき人達は視界に飛び込んではこない。
それどころか、この河原には私と彼しかいないように見える。

「ねぇ、手伝ってくれるの?」

「ああ、いいよ。」

「よかった〜」

彼に手を掴まれて、石の方に歩く。 
しっかりと握る彼の手は、少し汗ばんで、でも暖かかった。

石の側まできて驚いた。
結構大きいのだ。
そしてその石の向こうには、かなり離れた所から運ばれてきた事を示すように、
引きずったような跡だろう窪みが線になって続いていた。

「ねぇ、君。 この石向こうから持ってきたの?」

「そうだよ」

「随分重そうに見えるけど、どうやって持ってきたんだい?」

「学校で、テコの原理ってのを習ったから、その棒でちょっとずつ転がしてきたんだよ。」

「へぇ・・・、でも棒で転がすのも難しいだろ?」

「簡単だよ、おじさん。 石の下に穴掘って平らな石置いて・・・・・
 ちょっとやって見せるね」

彼は器用に石の下に穴を掘り、石を入れ棒を差し込んでズルズルっと少しだけ動かして見せた。

「転がすってより、動かすって感じだね」

「でも動いたでしょ」

「確かに・・・」

「ココまで持ってくるのは一人でできたんだけど、この石の上にのせるのはできないんだ」

そりゃそうだ。
私だって一人で持ち上がるかどうか・・・。

「ねぇ、おじさんが持ち上げてみようか?」

「む〜り、む〜り・・・。 一人じゃ上がらないよ」

「そうかな〜 やってみようか・・・」

そう言って石に手をかけ、しゃがみ込んだ姿勢から足の力を使って持ち上げようとした。
重い・・・・・、びくともしない。
少しぐらいは動きそうなものなのに、まるで動く気配すらない。
じゃ、さっきこの子がやってみせた移動は、どういう事なんだ・・・・。

「おじさん、この石は、絶対一人じゃ動かないんだよ」

「そりゃ、そうだよなぁ。 こんなに重いんじゃ・・」

「違うよ。 誰かが手伝ってくれれば、簡単に動くんだよ。
 棒だっていいんだ。 自分以外の力がかかれば動くんだよ。
 でも、誰かにやってもらおうとするとだ〜め。 一緒にやればいいみたいなんだ・・・」

「そうなんだ?」

「やってよ・・・わかるから・・」

言われるままに石に手をかける。 子供は私の反対側にまわって同じように両手で石を持った。

「せぇのぉ〜」

さっきの重さが嘘のようだ。 フッと石が持ち上がる。

「おじさん、コッチ!」

足元がゴロゴロして歩きにくいが、凸凹コンビは横の平たい石までうまくソレを持っていけた。
ゴツン・・という鈍い音。 石の重さが伝わってくるような、固い響きがする。

「ねっ できたでしょ?」

重なった石を見れば、その子と同じ位の高さに見える。
じゃ、この子は自分の頭の上まで石を持ち上げたって事か・・・・?

「おじさん、ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

「これで僕は帰る事ができるかもしれません。」

どういう事だ・・・・、気になる言い方じゃないか。

「君はどうしてこんな事をしていたんだい?」

「僕もよくわかんないんだけど、気が付いたらココにいて、
 お坊さんに会ったら、こうすれば帰れるよ・・・って教えられたんだ。」

「一人きりで?」

「いや、健司君も弘君もいたし、名前は知らないけど僕みたいな子供達がいっぱいいたよ。」

「遠足で来たの?」

「違う・・・と思う。 よく解らないんだ。」

「お父さんやお母さんは?」

「一緒じゃないんだ・・・」

お坊さんって・・・・、どういう事だ?
何で今は一人きりなんだ? この子は。

「人によって積む石が違うみたいで、大きい石の人もいれば小さい石の人もいるんだけど、
 みんな自分の背の高さまで石を積む事は決まっているみたいなんだ。」

「だからこの石の高さは君の背と同じくらいの高さなんだね?
 大人だったら、もっと高く積まなくちゃいけないのかい?」

「あれ? そう言えば大人の人なんていなかったよ。」

「そうなんだ・・・」

「決められた石以外を積もうとすると崩れちゃうから、お坊さんが言った通りの石を
 積む場所まで持っていくんだけど、小さくても重くて持てないんだ。
 だから僕はみんなに声をかけて手伝ってもらったんだ。
 そしたら、何人かで持てば動く事がわかって、みんなを手伝って一生懸命積んだんだよ。」

「背の高さまで積むとどうなるの?」

「積めました〜お坊さん〜って、山に向かって叫ぶんだ。そうするとお坊さんがやってきて、
 持ってる棒で高さを測って、その子の身長と比べるの。
 で、石の高さが身長より低いと、その棒で崩して帰っていっちゃう・・・・。
 だから僕達は肩車したりして、身長よりちょっと高いのを確認してから、お坊さんを呼ぶようにしたんだ。」

「考えたねぇ」

「僕、これでも理科の成績は良かったんだよ」

「そうか・・・・」

「でもね、そうやって背の高さ以上に積めた人はお坊さんに連れられて帰っていくんだけど、
 だんだん人が少なくなってくると、喧嘩がはじまるんだ。
 だって、誰だって早く帰りたいって思うからね。」

「そう・・・だな」

「ところが、喧嘩が始まると突然お坊さんがやってきて、そこまで積んだ石をみんな崩しちゃうんだ。
 その上、高さを測る棒でみんなのお尻を叩いていくんだよ。」

こりゃ、なんだか凄い話になってきた・・・。
空は曇っているし、風は冷たい。 見れば子供は鳥肌を立てて震えている。
あわててジャンパーをかけてあげようとした。

「おじさん、ありがとう。 でもジャンパーは脱いじゃだめだよ。
 僕も佐枝ちゃんにジャンパーを上げたら、佐枝ちゃんが着る前に消えちゃったんだ。
 だから、嬉しいけどきっとそのジャンパーも無くなっちゃう。
 おじさんが風邪引いちゃうから、おじさんが着てて・・・」

どういう事だ? 何故、ジャンパーが消えるんだ??

「僕達、色々話し合ったんだけど、順番を決める事ができなかったんだ。
 クジ引きをやろうって言っても、クジを作った人が最後になりたくないから、ダメ。
 ジャンケンしても後出しする人がいたりして喧嘩になっちゃう・・・」

「そうするとお坊さんが来て??」

「そう・・・・。 だから僕は、皆を手伝う事にしたんだ。
 そうしたら、誰かを手伝う度に石が軽く持てるようになったんだけど・・・」

「一人じゃ、持てないんだね?」

「うん・・・ みんなを助けたらいっぱい軽くなって、自分一人でも石を動かせると思ったんだけど・・・
 ダメだった・・・・・」

「でも、君はみんなを手伝ってきたんだね」

「そう・・・・。 でも最後の一人になっちゃって・・・」

いつしか子供は泣き出していた。
誰にも文句を言わずに、誰かのためにがんばってきたのだろう。
どうして誰も、彼を手伝おうと思ってくれなかったのか・・・・。

「おじさん、ありがとう・・・ね。
 おじさんが手伝ってくれたから、僕も自分の背の高さまで石を積めたんだ。」

「じゃ、おじさんも役に立ったんだね?」

「あっそうだ。 お坊さん呼ぶ前に、おじさんの石も積もうよ。
 おじさんはどの石を積めって言われてるの?」

「・・・・・誰にも、何にも、言われてないんだ・・・・おじさん」

「そうか・・・うまくいかないね。
 いつも石が積み上がると、皆すぐお坊さんを呼んじゃって、
 僕の石積みは手伝って貰えなかったから、
 おじさんの石積んでから一緒に呼べればって、今、思ったんだけど、
 うまくいかないんだね。」

「・・・君は優しい子だね。
 積み上がったらすぐ、お坊さんを呼びたいはずなのに、
 おじさんの事も考えてくれたんだね」

「そりゃそうだよ。
 もうずぅぅっと一人きりで、誰かが来る事だけを信じて待っていたんだから。」

「おじさんの他には誰も来なかったの?」

「誰も・・・・来なかった。」

「そうか・・・・淋しかったね。 
 おじさんはいいから、お坊さんを呼んだら?」

「いいの? 本当に?
 おじさんが一人になっちゃうよ?
 おじさんが帰れる方法がわかるまで、一緒にいてもいいよ?」

「大丈夫。 君は一生懸命頑張ったよ。 だからきっとおじさんがココに来たんだ。
 きっとおじさんの役目は、そういう事なんだと思うよ・・・」

「ありがと、おじさん。 じゃ、お坊さん呼ぶね」


と、突然目が覚めた。
当たり前の自分の部屋。
散らかったままの、見慣れた風景。

ただ、手には汗を握り、目からは涙が流れていた。

これってどういう夢なんだろう。

 
 
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