毎月第2火曜日は、私的集会を開く日。
要するに呑み会なのだが、自称「壁の会」。
横浜ロイヤルパークホテルのメインバー「ロイヤル・アスコット」にて、モルト馬鹿が集うのだ。
何故「壁の会」かと言えば、キープしたボトルがずらっと並び、壁の様になってしまうから。
勿論、最初からたくさんのボトルをキープする気は無かったのだが、
珍しいボトルほどリーズナブルとなる不思議な現象があって、気がつけば壁の一部になっていた・・・。
現在、正会員は4名。(1名は幽霊会員化しているが)
いずれ劣らぬ酒好きだから、外の見えないバーにこそ価値を見いだしていたりする。
ランドマークへ行ったら、70階からの夜景を楽しみたくなるのが普通。
だから観光客ならずとも営業接待もカップルも、と「シリウス」を目指すようだ。
過去2度ほど足を運んだ事があるが、
カクテルの荒さにがっかりしたのと、混んでいて窓際の席に空きが無く、
騒がしくて落ち着けない事が嫌で、常連にはなろうという気になれなかった。
4月1日の異動でシニアバーテンダーが「シリウス」からやってきたが、
客層の違いにまだ対応できないと言っていた。
一気に多数のカクテルを作るようなラウンジと、
ワガママの固まりのような酒好きが集まるメインバーとでは、
求められるモノが違い過ぎる。
スピードが求められる場所と美味しく飲ませる場所とでは、
同じ名のカクテルでも作り方が変わって当然と言える。
果たして、彼の作るカクテルはスタンダードなレシピに終始し、
こうしたら客が喜ぶだろう・・・という変形(冒険)は提案しなかった。
このバーには、困った客が多く来る。
彼等は複数のキープボトルに加え、マイグラスを持ち、必ず頼む肴があって、
タバコの好き嫌いから、オリジナルカクテルまで要求するのだ。
これを記憶し、顔を見たらその好み通りのサービスができて当たり前。
客にしてみれば店の人事なんて関係ないから、同じサービスがあると思って当然だ。
ところが、スタッフが変わっただけで、店の雰囲気もサービスの質もがらっと変わってしまった。
「壁の会」メンバースも当然うるさいオヤジ達だから、今年は教育期間と考えた。
自分達にとって大事だった空気を取り戻すために、
そこにその空気を演出するサービスを復帰させなくてはならない。
安くはない金を払っているのは、ホスピタリティ溢れるサービスの対価だと思っているから、当然の権利だ。
客に鍛えられる・・・という言葉を聞き、実際そういう事態にも巡り会ってきたのは事実だが、
鍛える側に足を踏み入れたって事だろうか?
酒の飲み方を知らなかった若造は、いつの間にかスタッフが全員年下のバーに行くようになり、
そのバーの持っていた良い部分を伝える立場になっていくらしい。
「・・・じゃ、最後にアイリッシュコーヒーをお願いします」
「ナジェーナで・・・二人分・・・」
「かしこまりました」
ヘネシーが作ったアイリッシュウィスキー「ナジェーナ」
この酒は、さすがはヘネシーと思わされるほど、スムースで美味しい。
「ジェムソン」や「ブッシュミルズ」よりも遙かに美味しいと感じている。
だからそれを使って作る「アイリッシュコーヒー」は私達にとっては絶品と感じられるもの。
それを「最後の一杯」に必ずオーダーするのは、私達の「決まり」なのだ。
だから、覚えてください・・・とばかりに、オーダーするのだが・・・。
耐熱グラスに湯を張って暖め、そこにウィスキーを注ぐ。
暖まって蒸発するアルコールに火を点け、グラスを回しながらアルコールを飛ばしていく。
その火は青く美しく、他の客の目を引くのはいつもの事。
半年前に異動になったバーテンダーは、同時に4つのグラスを回しながら火を絶やす事が無かった。
それはかなりのテクニックらしく、先日異動になったバーテンダーは
「やっと片手で2個回せるようになりました」と嬉しそうに語ってくれたものだ。
では、彼はどうやって作るのだろうか・・・・と注目していると、
二つのグラスに火を点けた後、片方のウィスキーをもう片方にすっかり注ぎ、
一つのグラスを回しながらアルコールを飛ばしている。
グラスを冷やさないように2杯分のウィスキーを空いているグラスに移し替えて回し、
また同じように注ぎ替える作業を続けている。
それは、何だか不思議な風景に見えた。
同じ飲物を作るのだから、そういう作り方もあるのだろうが、
グラスでビルドしている時に二つのものを一緒にして分ける・・というやり方は、
カウンターで見ていると気持ちよいものには見えない。
しかし、そうやって合理的に作ったものは、味にどう影響するのか知りたくなったので、
今日の所はクレームつけずに味わう事にした。
火が点いているうちに砂糖を入れ、一気にコーヒーを注ぐ。
そしてコーヒーの上に生クリームを、バースプーンを使って静かに注ぐ。
出来上がったソレは、見た目的にはいつもと変わらない物。
それで味の方は・・・・・
何だ??
コーヒーが変だぞ???
おおよそ体験した事の無い変な味がする。
塩・・・だ。
横の友達もウェッ・・・とした表情を見せた。
「ねぇ、飲んでみな。」
とバーテンを呼ぶ。
どんな物を作ったか教えようと思っての発言だが、横の友達はもっとストレートにこう言った。
「間違えて、塩入れただろ?!」
・・・ね
鍛え甲斐があるでしょ?
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