人に気持を伝えるのは難しく、言葉を尽くしても果たせない事は多い。
仕事絡みだったりすると、余計に難しい。
相手を認めて、情報を与えて、同じ土俵を探しても、
その土俵に上がってくれなければ勝負にならない。
だから、頑なな気持を解すために自分の弱みを晒してみせたり、
相手の気持ちや立場を想像して通う言葉を探りながら投げつけたりするのだが・・・
迷惑をかけるから・・・という壁に阻まれ、
気持や心は全て跳ね返され、傷つき形を変えて、戻ってきた。
痛んだ心を癒すのは難しい。
相手の状況を考えれば、まだ今の自分の方がマシ・・・と思える事を救いに、
飲んで忘れる位しか思いつかなかった。
No.10 という名のボトルが
ロブロイのカウンターに置かれているは前から気がついていたが、
どうみてもウィスキー系では無いので、特に飲みたいとも思っていなかった。
が、今日はしっかり酔っぱらうと決めている。
だから、飲んでやろう・・・と思ってマスターに尋ねた。
それはタンカレー社のプレミアムジンで、
現在稼働中の蒸留器の中で一番古い「No.10」で作られた原酒をボトリングしたもの。
だけどタンカレーファンには受けないほど、柔らかい・・・。
普通のタンカレー2本より高価・・・・・。
そう聞かされてよく見れば、瓶の上の方にタンカレーのロゴが付いていた。(瓶自体についている)
最古の蒸留器で作った物のみの原酒・・・・・
こりゃ飲む・・・でしょ(^_^)
で、迷わずオーダーしたのは「マティーニ」だった。
このカクテルほど色々言われるモノは無いんじゃないかと思う。
飲み方、作り方、逸話・・・・。
それを知っていちいち試すような愚挙はしないが、どっかのバーテンダーが「100回ステアしろ」なんてほざくと、
実際にそうした「マティーニ」を飲んでみたくなったりするのは事実だ。
何故かスピリッツや焼酎の類にはメチャクチャ弱くなったので、ジンからも遠く離れていた。
だから、本当に久々の「マティーニ」となるわけだ。
彼はミキシンググラスに氷を入れ丁寧にステアして冷やした後、
ジンとベルモットを入れ100回では無いにしろかなりの回数でステアした。
冷蔵庫から出したグラスに注ぎ、テーブルの上でレモンピールを効かす。
霜で白くなったショートグラスが綺麗に見える。
普通のグラスよりちょっと多目に入りそうなグラスだが、ショートは3口だ・・・と身構えた。
柔らかく、香り良く、スムーズで美味しい。
だけど、いつまでもしつこく残るような香りはない。
マティーニを飲んだ・・・と思えるようなジン臭さは、殆ど感じられなかった。
だから、タンカレーファンには物足りないと思うんだろう・・・なと思いつつ、3口で干す。
47.3%のアルコール度数とは信じられない・・・と言えば、その優しさが伝わるだろうか?
味わいが深い酒は、余韻を楽しむもの。
ジンだとてそれだけのものがあれば、同じ事。
ゆっくりと酔いに浸りながら、次の酒に困っていると
マスターが「マッカラン18年・グランレゼルバ1979」を薦めた。
アルコールも味わいもこのジンに負けなくて、しかも私の好みを考えればソレしかない。
「でもこれってサ・・・最後の酒になっちゃうヨ?」と合いの手を入れながら味わえば、
やっぱりモルトが好きなんだなぁ・・・と思える程、しっくりときて幸せになれた。
人生は短すぎるから、自分の道は自分で決めるに限る。
そう思って生きているはずの自分が、他人の心配をしすぎたのかな・・・と思う。
生き方を他人に変えられる事は受け入れがたいと考える奴が、どうして他人に意見できようか・・・。
思いっ切り酔っぱらうつもりで飲んだ酒が、
良過ぎたのかも知れない。
気がついたら朝、ちゃんと自宅で布団に入っていた。
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