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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

東沢にて

7日に散骨式執り行います。
集合場所:西丹沢自然教室
集合時間:午前10時

エェッと朝? 朝10時??
マジ・・かよ・・・・  と内心思う。

恩人の自然葬を、故人の好んだ丹沢で行うらしい。
一緒に行く人間と同乗して現地を目指すとしても、集合地点が丹沢湖の奥だぜ・・・

8時に高島町で仲間と合流し、一路丹沢に向けて東名を下る。
天気は芳しくなく、そのおかげで道は空いていて、順調に車は走った。

河内川沿いに丹沢湖を目指して走ると、山肌には桜の木がチラホラ。
ちょうど満開の桜と、新緑で芽吹いた広葉樹とが良いコントラストを作っていた。

故人は友人の父で、丹沢をこよなく愛した人で、
人生に必要な事のいくつかを教えてくれた人。
野外活動のイロハや山歩きの初歩を教えてくれた人でもある。

集合地点には、四半世紀以上前に一緒に野外活動をした仲間達が揃い、
故人の娘の顔もそこにあった。

なんだか懐かしく思う。

「では、行きましょうか・・・」の声で、一同準備を始める。
トレッキングシューズに履き替え、ヤッケを着、ナップザックを背負う彼等。

オイオイオイ・・・・
何故そんな格好になる???

「ねぇ、知ってた?」

「いやぁ・・・、聞いてない・・」

「ど〜すんだよ?」

「俺の車にはちゃんと装備が積んであるんだな・・・ ほれ、シューズにザック・・」

仲間達はデフォルトで、トレッキングシューズを車に常備しているらしい。

それに引き替え私の格好は、まったくいつもの通りの格好だ。
ジーンズにTシャツ、その上にウィンドブレーカーとカットオフ、
そして靴はレッドウィングのエンジニアブーツ・・・。
後は、途中のコンビニで買ったおにぎり2個とジャスミン茶、
雨よけ用の合羽(バイク用)のみ・・・と。

「何処へ行くの?」

「檜洞丸(ひのきぼら)方向で50分くらいですか・・・」

ツアーリーダーがそう言うが・・・

何処、それ?
ま、ついていけばいいって事だろ・・・と、諦めて列についていく事にした。


河原は綺麗に整備され、オートキャンプ場と化している。
道路は舗装され、結構な山奥だとは感じさせない。

これじゃ、普通の靴でも問題な〜いじゃん・・・と思っていると、
ほんの5分も歩いた所に小さな沢があった。

そこへ向けて、先頭は曲がる・・・・。

・・・お〜い 冗談だろ??
いきなり沢かよ???

檜洞丸(ひのきぼら)ってサウンドだけで想像していたのは、洞穴状の場所。
この舗装路を50分ほど歩いた所に洞穴か何かがある・・・と勝手に想像していた。

後で知ったのだが、檜洞丸(ひのきぼら)とは丹沢の峰の一つ(青ヶ岳山荘がある)。
もちろんそのてっぺんまで登るのでは無いにしろ、その側の東沢まで行くのは確実らしい。
それにしても・・・

ちょっと歩くと息が上がる。
かなり急な斜面を慎重に登る。
雪解けのせいか、道が道らしくなくて、所々斜面のまま。
ウェスタンブーツで来なくて良かった・・・としみじみ思った。

野外活動に参加した時、最初に買わされたものは「キャラバンシューズ」
山なんか登らない・・と言っても、河原を歩いたりするのだから必要だと言われ、
無理をして買ったのを覚えている。

確かに足元が危うい時、底の固い靴は楽だ。
底の一カ所で体重を支える事もあるので、河原には適した靴なのだろう。
エンジニアブーツは、偶然にもそれに近い靴だった。
ヒモで固定できないが、ホールドがよく足が中で遊ばない。
底はブロックパターンになっているから、どうにかこの山道にも対応できるのだ。

高度差にして200メーター以上は稼いだであろうか。
とにかく目的地、東沢の河原に到着する。

歩いていて感じるのは、自然の音と土の軟らかさ。
そして澄んだ空気と植物の色。

彼の愛用の登山靴を埋めた場所に集まり、彼の遺骨をその辺りに撒く。
献体に出された彼の遺体は、随分遠回りをして遺族の元に返り荼毘に付された。
没した時も、火葬された時も、特にこれといったセレモニーはなかったから、
こうやって目の当たりに遺骨を見ると、不思議に思う。

しかし、風化しない想いはあって、
あらためて故人を失った悲しさは、ゆっくりと確実にこみ上げてきた。

お疲れさま
ゆっくりお休みください

心の中で、しっかりお別れをする
その場所が、故人にとっての大切で大事な場所である事は、
故人のみならず自分にとっても幸せだ・・・と、心から思えた。


日曜日の11時半。
丹沢の東沢で、コンビニのおにぎりを頬張る。

美味い・・・
なんて贅沢で、なんて幸せな一時だろう・・・

たっぷりの自然に浸かり、味わい、
忘れていた30年近く前の感触を、あらためて思い出す事ができる。
それは現代に慣れきって忘れてしまった大切な感触。
それは敢えて目を背けていた大事な記憶、自分の原点の一つ。

予想していなかったトレッキングは、忘れていたはずの歩き方を思い出させ、
自然は人間にとってこんなにも大切だと感じさせられた。
そしてそれらは、意識していないといつの間にか忘れてしまうものだとも。


人と人との出会いは不思議だと思う。

故人に会わなければ、
こうやってここまで来なかったと思う。
こうやって自然の大切さを再発見する事もなかったと思う。

最後の最後まで「教える事」があったのか・・・と感じ、
「ありがとうございます・・・」と心の中で呟いた。

 
 
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