年度末最終日、日曜という事もあるだろうけど、バーはとても空いていた。
「実は、今月いっぱいをもちまして異動となりました・・・・。」
と馴染みのバーテンダー2人に言われていたので、
顔を見に行ったのだ。
ホテルだとこういった事はあって当然だが、客の立場だとちょっとつまらない。
「あの・・」と声を出すだけで、欲しいモノを察してくれる関係は、
それなりに時間がかかって(金もかかって)築けたもの。
また、1からやり直しだ・・とまではいかないものの、細かいルールは作り直しとなる。
でも、それがまた新しい時間を演出してくれるから、楽しみの一つになるだろう。
ホテルのメインバー。
そこは仰々しい場所で、若造が顔出す所ではないと思っていた。
勿論そう思っていたのは20代の頃。
酒の飲み方も楽しみ方も、粋も伊達も解らず、金も無い時代だ。
でも、憧れというモノは何となく持っていた。
何かの勢いで入っても、よくて3杯飲む位。
定番のカクテルを頂くだけで席を立つのが関の山で、酔える余裕もなかった事を覚えてる。
「ホテル・ニューグランド」の「シーガーディアン」に副社長に誘われた事で、
ホテルバーにボトルキープができる事を学んでも、分相応になるまでは暴挙に出る事を拒んできた。
しかしそれは、モルトとの出会いで変わる。
ダルウィニー15年
UD社クラシックモルトシリーズの中でも、スタンダードな味わいを見せるハイランドモルト。
デュワーズ・ホワイトラベルにも似たスコッチらしい味。
混ぜモノの無いピュアな味わいに惹かれ、悪酔いしない事実に驚き、
当時モルトとして有名だった「グレンフィディック」よりも遙かに豊かなボディに後ろ髪を引かれる。
気が付いたらボトルキープを、当たり前に繰り返していた。
当時通っていたのは、「ザ・ホテル・ヨコハマ」の「赤いくつ」。
ここはカウンターだけの店で6人掛け。(現在は、特別な時しか開けなくなった)
窓の無い少人数しか入れない空間に、専属バーテンダーが一人ついている。
オンザロックを頼めば、グラスにギリギリのサイズになるまでアイスピックで削った丸氷で出すのは、
ここのサービスレベルとしては当たり前の事だった。
さりげなくメニューにないツマミを出してくれたり、
会話の中から翌週のスケジュールを聞き出し、席を押さえたりもしてくれた。
その頃覚えた暗黙のルールは、現在の飲み方の基本になった。
一杯だけ飲んで席を立たない ← 二度と来ないの意味がある
○○日に来ると言ったら必ず行く ← 席を押さえて行かないのは営業妨害であり信用問題でもある
大きな声で話さない ← 他の客に迷惑をかけるから、営業妨害
バーテンダーを独占しない ← 他の客に迷惑をかけるから、営業妨害
「手間のかかるオーダーはバーテンダーの仕事量を見てする」なんて事は当たり前で、
いつ頃次のボトルを入れるとちゃんと話したり(特殊な物は特に)、
客(特にクセのある人)を連れて行く場合にあらかじめ相談しておいたり・・・と、
サービスする側に情報を与えるように自分自身も変化していった。
(彼等にとってありがたい事であり、余裕を生む事に繋がる結果、
特別なサービスをしようという気にもなってくれて、結果的に素晴らしく居心地が良くなる)
色々な荷物を下ろし一日の疲れを癒す場所だから、ある意味妥協はしたくない。
空間と空気が大切で、上質なモノが欲しいと思う。
そのためには、スタッフとも心地よい関係を持っていたいのだ。
最後の一杯を作ってもらった彼に名刺をもらう。
バーで名刺を出さない主義を通しているが、交換するのは社会の掟(爆)
初めてみた彼の名刺にはアシスタントキャプテンと肩書きがあった。
どうやら地位が上がったようだ。
入社以来バー関連ばかりを歩いてきた彼が、
最初に配属となったセクションに戻ると聞いて、その役割が見えてくる。
人事は当事者にとって、必ずしも嬉しいものではない。
企業としては適材適所を考え、当事者の可能性を予測して行う。
それをツマラナイと切り捨てたり、仕事その物を放り投げたりするのは、バカな事。
何故なら自分の可能性を探るチャンスであり、新しい道を見つけるキッカケにもなるのだから。
「トラブル」も「変化」も、新しい形を作る上では「力」となる。
だから、「嫌だと感じる事を、積極的に受ける気持」を持って生きたい、と思う。
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