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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

コイーバ

カウンターに一人で座る女性。
キープボトルを2本置き、もう20分は電話し続けている。

土曜の夜中。
約束をすっぽかされたか、それともワケアリか・・・。
しかし、無粋だな・・・と思いながら、何となく観察していた。

と、バーテンダーに何かをオーダーした。
その間も携帯を耳から離さない。
余程大事な話なんだろうか・・・。

バーテンダーが「コイーバ」とシガー用の灰皿を持ってきた。
女性がフルサイズのシガーを楽しむのを、初めて見る事になりそうだ。
しかもコイーバとくれば、なかなかの強者だ。

*「コイーバ」は、キューバ政府御用達のプレミアシガー。
 当初は一般に市販されていなかったので、政府が要人として招いた人のみが味わえたと聞いている。
 カストロ大統領専用銘柄で、本来は現地語でタバコの意味を持つ単語だとか。
 キューバ産のタバコからドミニカ産変更したダビドフは、政府と色々なやり取りの中、
 そのブレンド方法などを伝えたとも言われている。
 キューバ産シガーのトップブランド

フルサイズシガー。
コロナと呼ばれるサイズなら、ゆっくり吸えば1時間以上は当たり前に保つ。
女性は、そんな太く長い葉巻をくわえる事を避ける人も多い。
またその単価から、余程のタバコ好きでなければ男でも嗜む事は無いモノだ。

「コイーバ」は、その巻きの柔らかさから火が消えやすい。
ダイビドフのように安定した燃焼と白く綺麗な灰なんてものは、望むべくもない。
ただ、香りは抜群に素晴らしく、希少性とも相まって人気は高く、値段もかなり高価なのだ。

「コイーバ」の香りは大好きだが、ちょっと気を抜くと消えてしまう事が嫌で、
私はいつも「ダビドフ」系を嗜んでいる。(ダビドフ・グリフィン・ジノ)

だから気になるのだ。
どうやって吸うのだろう・・・と。
そして、そんなマニアックなモノを深夜一人でバーで嗜む彼女自身にも
興味はどんどん沸いてくるのだ。

彼女は携帯を受話器のように肩に挟んだまま、
器用にギロチンカッターでキャップを切る。
それは、とても鮮やかに見えた。

しかし、
次の瞬間、普通のタバコのようにくわえ、いきなり100円ライターで火を点けた。

なぁんだ・・・・・つまらない。

それはまったくの素人がする行為なのだ。
期待は大きく外れ、興味は空気が抜けた風船のようにしぼんだ。

シガーは香りを大切にするモノだから、点火はかなり気を使うもの。
赤樫の長いマッチで炙るように点けるか、100円ライターでも外側を焦がさないように
直接火を当てないで点火したいものだ。(焦げると不味くなる)
太い葉巻を平均して燃やす為には最初に綺麗に火がつかなくてはいけなく、
注意しながらじっくり火を点ける事も大事な儀式のようであり、
また楽しみな事でもあるのだ。

電話を止めない彼女は左手でシガーを持ち、ちょっと吸っては灰皿に押し当てて灰を落とす。

あ〜あ・・あれじゃ美味しくないだろうな・・・。
(葉巻の灰は少し長めに残しておくと、適当な保温効果と酸素量の調整ができて円やかで美味しく吸えるもの。
 優しく静かに吸えば3センチくらいの長さまで落とさない吸えるものだし、
 長く灰を残している人は味を楽しんでいると、判断できるのだ。)

多分、あっと言う間に火が消えるな・・・と思って見ていると、
やっぱりすぐ、彼女のシガーは火を失った。

彼女が隣の客と話をし始めたが、大きな声でよく聞こえる。
で、聞いていてわかったことは、このバーで出会った外国人から葉巻を教えてもらった、という事。
この店でしか葉巻は吸わず、普段は紙巻きをバカスカ吸っている・・という事。

趣味のモノ、嗜好品は、楽しむための拘りがかなりあるもの。
だから先達に教えを請う必要があるし、その方がより楽しめる。
先達が知り合いに居なくても、今はネットで検索するだけでかなりの知識が手に入る。
そして、その知識を自分で試行錯誤していると、いつの間にか自分のスタイルが出来上がるのだ。

一緒に歩く人とは、互いに良い所を吸収しあい、磨きあっていく事が好きだ。
酒の楽しみ方も、旅行も、食べる事や仕事の事も、一緒に消化できたら幸せだ。
そしてそれは、互いのレベルを押し上げる効果を持つ。
そういう関係でなければ長続きしにくいだろう・・とも、私自身は思っている。

価値観や感覚が合ってこそ一緒に居て楽しいわけだし、
新しい発見も分かち合う事ができるのだ。

どちらか一方だけが寄っかかっていては、そんな関係は成り立ちにくい。
そして楽しみも半減するように思う。


彼女が、鮮やかにコイーバを吸って見せたら、
その向こう側に、先達(彼氏?)の姿が見えたろう。

私には上手く吸い続けられないコイーバを、
気楽にくゆらしながら一度も消さずに吸い続けていたら、
どうやってそう吸えるのかをきいてみたいと、真剣に思っていた。
価値観の分かち合いもできるかも知れない・・と期待もしていた。


きっと、誰かに教えられたものではなく、自分でも磨いているものでもなく、
ただ香りだけ気に入った・・・という事だけで気まぐれに吸っているだけ。
一本2000円を超える葉巻を紙巻きタバコのように扱えるのは、金銭感覚が違うだけなのかもしれない。

ものの15分も吸わないで、半分以上を残して、彼女は席を立った。

色々な話をする機会を逃してしまったが、あまり悔しくない。
ああいう楽しみ方もあるんだな・・と勉強になっただけ。


しかし、格好良くシガーを吸う女性って居ないものかね?

 
 
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