日曜のロイヤル・アスコットは空いていた。
変な訛のある英語を喋る外国人が二人だけカウンターに居る。
後は見事に誰も居ないのだ。
勿論、この静けさが有るだろうと思っていた。
そして狙っていた。
ホテルのメインバーを独り占めしているような気分と、
密やかな空気を楽しめる事はとても贅沢だと感じるし、大好きな事でもあるのだ。
その二人は、年齢にして30代と5〜60代の男。
若い方はビールを飲み、年老いた方はラムコークを飲んでいる。
仮に彼等を親子としておこうか?
そんな感じに見える二人なのだ。
彼等の常識として、私の風体は子供に見えるはず。
(過去の経験から、間違いなくそう言い切れる)
ましてバーはほの暗い。
当然彼等は、好奇の目で私を見た。
こんな夜中に、子供がバーに来ていいのかい?
といった目で。
こっちはカウンターの端に陣取っているから、斜め右に彼等を視認できる。
だからこちらも面白半分で観察を決め込む事にした。
バーテンダーがいつものようにボトルを持ってくる。
その本数が6だとわかった時、彼等の興味は頂点に達したようだ。
「オイオイ、ガキがボトルを山ほど並べてるゼ・・・
どうなってんだ?」
「まったくだゼ、オヤジ。
ずいぶん旨そうなスコッチを並べてるゼ」
なんて会話がなされたかどうかは知らないが、確かにモルトの瓶を見る目つきは、
その酒が飲みたい・・・と語っている。
オヤジの方がトイレに行き、帰りに背中のカラーをしげしげと眺めている。
そして首を捻りながら、席に戻った。
3ピースのカラーは、欧米ではアウトローバイカーの象徴だ。
思いっきりそんなスタイルをしているわけだから、当然彼等にもその意味は想像できる。
こりゃ、カマすしかないでしょ(^_^)
酔っぱらいとは言え、後ろに立たれて観賞されるのは好きじゃない。
おもむろにシガーケースからグリフィン300を取りだし、ライヨールのシガーカッターでカットして、
ウェンガーのターボライターでじっくり着火する。
紫煙が上がり独特の香りが漂う。
それが余計に彼等を刺激したらしい。
二人でコッチを見ながらまた会話を始めた。
「オヤジ・・・、あいつシガーまで吸い出したよ〜」
「なんだかバイカーのような格好してるが、どう見ても子供だよ。
東洋人は若く見えるが、それにしてもなぁ・・・」
「なんか腹減っちまったヨ、オヤジ」
「ビールだけでいいんじゃなかったのか?」
突然、オヤジはバーテンダーに何か食わせろと言う。
出されたフードメニューをシゲシゲと眺めた後、
チーズの盛り合わせをオーダーした。
とにかくこちらを見る。
声をかけるでなく、ひたすら見る。
鬱陶しい。
こっちは半ば無視しつつ、旨そうに葉巻をくゆらした。
妙な緊張感
妙な空気
エライジャ・クレイグ18年をベーズに作った「フレンチ95」をやっつけた後、
ラフロイグ15年をストレートで飲む事にした。
その仕草を見てまた、彼等は話し出す・・・・。
「ふぇ〜、あのクソガキ、とうとうニートで飲みだしたぜ、オヤジ。」
「一応飲み方は知ってるって事だな」
「なんか腹立ってきちまったヨ、オヤジ」
突然オヤジが勘定を頼み、二人は席を立った。
首を傾げながらもう一度こっちを一瞥する。
よっぽど気になったようだ。
大好きな独り占めの時間が戻った。
しかし・・・・
こんなアテレコも、一人で飲む酒の楽しさの一つではある。
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