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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

RA

年度末という事で、色々やっかいな問題が続出。
六法全集を開きながら商法を確認したりと、頭が痛い事夥しい。

となれば、そんな荷物は落とすに限るとばかりに、同僚と飲みに行く事になった。
(何だかんだ言いながらも、飲むばかり・・・)

いつの間にか、バックバーの下の戸棚に移された私のボトルは、
巧みな売り込みを避けきれない結果6本となり、
カウンターの前に壁となってご登場〜♪となる。

同僚も同じ轍を踏んで3本を揃えているから、かなり下品な風景になる。
でも今日は、とにかく「飲む!」気分なのでコレもまた良し・・・という事にしておいた。

「ロイヤル・アスコット」
横浜ロイヤルパークホテルのメインバー(2F)

気取らないスタッフが揃い、料金がリーズナブルな事もあって、気がつけば常連。

店内の暗さと座り心地の良い椅子のおかげで、居心地は抜群。
高層階の絶景は無い(窓すら無い)が、飲むために来ている私には関係ない(^_^)

観光客が来ない、という効果もあって客の年齢層は高めのビジネスマンが多い。

11時半を回ると終電を気にする客が退き、プライベートルームのようになる。
その静けさは、一日の締めくくりに相応しく、ゆっくり酒やシガーを味わうのにピッタリだ。

いつもより早い時間に辿り着いたせいか、壁を作るのに気が引けるほどカウンター混んでいた。
エライジャ・クレイグの18年をスターターとして、パルタガスのクラブを楽しみながら、
珍しくロックでバーボンを続けていた頃、隣に一人客が座った。

「まだコレッ ・・・ボトル、あるよね?」

「はい、ございます。」

「・・・よっ よかったぁ・・・うん」

「しばらくお待ち下さい。」

この店には珍しくカジュアルな格好の彼は、ちょっと緊張した感じを漂わせつつ、
多分流れたかも知れない・・・と想像していたボトルがある事を確認して、
大きく安堵の息を漏らした。

マッカラン18年(1982)が出される。
ボトルを掴んで残りを確認する。
2.5ショット分位しか残っていない。
少し寂しそうな顔をしながら、左右に目を配る。

そして突然彼は、信じられない事をした。


「おいおいおい、ちょっと待てよ!」

思わず声が出た。
彼はいきなり私のボトルを掴み、自分の前へ持っていくや、
シゲシゲとラベルを見だしたのだ。

思い出した。
随分前だが、彼がカウンターで美味そうに、幸せそうに、
マッカラン18年を楽しんでいた姿を。
そして、横に座っている見ず知らずの客にも振る舞っていた事も。

初めてマッカラン18年を飲んだ時、その素晴らしさに圧倒された事を思い出し、
微笑ましく見ていたような記憶があった。

「これはマッカラン18年ですよね?」

「お客様、お止めください。」

「・・・あぁ・・・」

バーテンダーが私のボトルを取り返し、もとあった場所に置く。
酒が入っていたからこそ切れずに済んだが、この時点ではかなり気分が悪い。

彼は自分のした事の意味も解せずに、私のボトルに対して質問を始めた。

「どう違うんですか?」

「全然違いますよ」

「こちらのボトルは全部そちらの?」

「エエ」

此処までが我慢の限界。
怒りを抑えている事も伝わらない。

私は、隣の客を無視する事にした。


カウンターという場所は、客と店側がとても近い場所。
だから、サービスが難しいとよく、カウンターの中の人は言う。
そして客側にも、暗黙の了解が存在するものなのだ。

それは、空気を読む事、に尽きる。

バーテンダーや板前を占領しない配慮は当たり前。
見ず知らずの客との会話のネタ選びは、
その場の空気と自分の来たタイミング等で、気を使うもの。
例えば、匂いのきついシガーは、メニューの存在するこの店においても、
カウンターの隣が吸わない場合には、遠慮すべきモノだったりするのだ。
(横に並ぶ客を見て問題無しと判断できない時は、絶対にフルサイズには手を出さない)

寿司屋や天ぷら屋の少人数しか座れないカウンターでは、タバコすら遠慮すべき事。
美味しい料理や酒を楽しみたい人達が集っている場所での個人主義は、
その単価に比例して怒りを煽るだろう・・・。


私よりは若く見えるその客は、少し聞き取れないような口調で独り言を繰り返し、
しかし楽しそうに酒を飲んでいた。

きっと彼は、バーカウンターの空気まで読める程飲むチャンスが無いのだろう。
変な店に行くより、正統派の完成系の一つとして存在するホテルバーを選んだのは、
ある意味で大正解な事。

単に楽しく酒を飲み、隣に座った客と酒の話がしたかっただけなのかも知れない。
そして、この店には異質な風体の私だったら、砕けた話ができると思ったのかも知れない。

礼を失する行為を行う意味を忘れて自分勝手に振る舞う人間が増えた今、
一言も無く他人のエリアに入る事が受け入れられる環境があってもおかしくない。

でもなぁ・・・・


明らかに彼に背を向けて同僚と話をしていたら、
ちょっと飲んで新しいボトルを入れて、席を立った。


「申し訳ありません」

と馴染みのバーテンダーが頭を下げる。

「君が謝る事はないじゃない?
 でも、変わった客だよねぇ・・・」

「前も一度、隣のお客様を怒らせた事がありまして・・・」


横に並ぶ客を選ぶ事ができないからこそ、店は大変なのだろう・・・と思っていたら、

「何時、刺しちゃうかと、冷や冷やしたよ・・・・」

と、同僚が冗談カマしてくれた。

 
 
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