去年結婚した部下のお祝いで桜木町に飲みに行った帰り、
時間が早すぎて収まりがつかずに、散歩を決め込んだ。
東急沿いのR16を歩いていると、歩道に置かれたV-Maxを見つける。
立ち止まってふり返れば
「YaZoo」という看板が目に入った。
店の中にはメットがかけてあって、いかにもバイク乗りカモンの店だ。
でも、店の中には誰も居ない。
誰かが帰ってくるまで待ってまで、飲みたい気分でもない。
だから足を、高島町方向に向けた。
古くからあった妙に薄いビル(道に挟まれた敷地なのでどうしてもそうなる)は随分壊され、
マンションが多く建設されている。
前後に太い道が通っているから、住んだらウルサイだろうな・・・と、
どうでも良い想像しているとまた、
バイク乗りカモンの店があった。
「Ace Classic」
一階がバーで、二階がパーツ屋らしい。
人がいるようなので、入ってみる。
カウンターには年齢不祥の姉さん一人。
テーブル席が二列あって、20人も入れば酸欠になりそうなサイズだ。
店の奥にはガレージがあるが、トライアンフにチョッパー風のハンドルをつけた改造車が、
ディスプレイよろしく置かれているが、その横にもテーブルがある。
若者が溜まりやすい構造だな・・・と、ちょっと懐かしい気持にさせられた。
バイクを磨いたり整備しながら、ビールを飲んだりする楽しさは、
何時の時代も同じなんだろうと、感じる。
薄っぺらい革のベストに革のハンチングを被った金髪兄ちゃんが、先客でいる。
でも、姉さんと馴れ合った会話を聞けば、ド常連か関係者だろう・・とも感じる。
英車のアメリカン風カスタムがどうの・・・とか、2階がパーツ屋だとか話ながら、
飛び込みなぞ殆どないだろう(場所が悪すぎ)この店に訪れた、得体の知れない人間を観察している。
まあ、フレンドリー。
ビールも英国ビールが充実していて、飲むものには困らない。
若者向けだからか、高いモノは無く、バスを舐めながら適当に相槌を打っていた。
カットオフにジーンズ、エンジニアブーツで腰には色々ついている。
リングにブレスレットがジャラジャラしてれば、いかにもアメリカンスタイルだ。
店のテイストとはちょっと違うゼ・・・と言いたげな兄ちゃんは、ちょっとだけこっちの背中を気にしていた。
どんなバイクに乗っている? ドコに住んでいる?
大きなお世話だ。
ちょっとウザイな・・・という顔をしたのだろう、カウンターの姉さんが割って入る。
飲み屋じゃ、酒の話が一番良いって解っている娘だ。
本牧から通っているというキッカケから、何処で飲む・・・といった話にシフトできた。
そんな頃、ガレージ側から店に入ってくる客がいた。
金髪兄ちゃんは、ガレージに繋がるガラス戸の鍵を開けに私の後ろに回る。
さぁ、コイツの背中を見てやるゾ・・・という目つきをして。
綺麗に磨かれた英車に、大きなプルバックハンドルは似合わない。
ただ、その珍しいファッションは、他人とは違うんだゼ!と言いたい奴にはヒットするのだろう。
若い頃、誰かと同じ格好がイヤだった。
制服はがんじがらめの象徴で、バッチはクラスの識別票。
その格好をどれだけ崩すかが根性の証で、
ファッションで語り、脅し、騙し、
それがアイデンティティだと思い込んでいた。
スタイルとファッションの区別がつくには、それなりの加齢が必要だ。
記号ばかりを欲しがって、その中身を理解せずに真似る事は、
自分の軽さを晒しているだけの愚行なのだ。
何となく新参者に対して、見下すような顔つきで語っていた兄ちゃんは、
その後一言も発せずにビールを一本開けてから帰ったとさ。
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