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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

怒号飛び交う中

ある日、一つの封書が届いた。
開けてみると、関係者各位と書かれた紙が入っている。

なんじゃいコレは・・・と思いながら視線を下げると、
「破産宣告通知書」と書かれている。

一瞬、思考が止まった。
慌てて読み直すと、地方裁判所の書記官が出した通知である事がわかる。
続いてその破産者の項を見ると、 社団法人 神奈川県中小企業年金福祉共済団 とある。

ゆっくり深呼吸をしてから次のページをめくった。


数日前、新聞沙汰になった特定退職金共済団体初の破綻である。
契約社数は500社にもおよび、実際共済より将来退職金を支払われるハズだった被共済者は3500人を越える。
そして我が社もこの共済に、社員のための退職金の積立を行っていた。

だから、事は重大だった。

バブルが崩壊し、金利が低迷し、掛金を運用しても益の出なくなった共済団体は、
不景気のよる退職者の急増もあって、支払わなくてはいけない額より資産が下回ってしまった事を受けて、
せめて会員が積んだ原資(運用前の積立額)を割る前にと、自ら破産申し立てをしたのだった。

説明書を読んだ限りにおいて最低限の誠意を感じはしたが、その対応については一切記述が無い。
そしてその説明会を行うとの紙が、法人代理人である弁護士名で添付されていたので、本日参加してきた。


炎天下の中、県下の数百社の代表が、開港記念会館のホールに集まる。
席はすぐ埋まり、2階席も必要とした。

最初に、代表理事会長が挨拶をし、簡単に経緯を説明しながら、ひたすら謝った。
そしてその後に 専務理事が経過説明で登壇したが、予め送付されていた説明書を読み上げだした。


「私が来た時は既にメチャクチャの状態で、決算も5年に一度しかやっていなかった。
 職員達にはやるように言ったのだが、既に時遅く・・・・」

「何言ってんだがワカンナイヨ!!」


説明書上でわからない部分については後で説明すると加えるだけの発言が40分を越えた頃、
すでにその説明書を熟読している会員達から怒りの声が上がった。

責任者が責任を回避し、聞きたい情報を提供しないだけではない。
その態度は、俺のせいじゃない・・・という傲慢不遜な感じが溢れていたのだ。

企業にしてみれば、共済が支払ってくれる退職金のうち、その運用益の分については減額を余儀なくされる。
その事は、平均で一社あたり10名にも満たないような小企業にとっては、将来の資金計画に大きく影響する。
そんな不利益を与えた責任者が、俺のせいじゃない・・・と意思表示したらどうだろう。

一人が怒鳴れば、もう止まらない。
会場は口々に怒りを表す言葉が溢れていく。
そしてとうとう誰かが、「皆の真ん中にきて土下座しろ!」と怒鳴った。

専務理事は言われた通り、会員の真ん中まで歩を進め、そして土下座して大声で謝った。


大勢の真ん中で、土下座して謝る姿は、何だか見ていて気持が悪い。

彼にしてみれば、これ以上会員に迷惑をかけられないから・・ととった、破産申し立てだっただろう。
しかし、何もできない状態で理事に就任してしまったが故の、責任転嫁にとれる発言をしてしまった。
それが、被害者意識を持つ者達には、恐ろしく傲慢に写っただけの事なのだ。


今回の破産については、取りあえず掛け金は全額返すという好条件ではある。
だからこそ、会員達は、政治答弁のような説明にも寛容な態度を示した。
しかし、一度切れてしまった集団は、止まる事を知らなかった。

こういう説明会では本当に怒号が飛び交うんだなぁ・・・と、ちょっとビックリしながら傍聴していたのだが、
管財人よりその共済掛金の戻し先について言及された時、さすがにこちらも青くなった。

管財人とは、裁判所に任命された弁護士である。
いわば、裁判所側の人間・・・と言ってもいい。
だから、当然のように法律を盾に話を始めたのだが、それは今回の珍しいケースにはまったく則していないモノだった。

「破産してしまったので法的には契約は解除、掛金は被共済者に直接返す・・・」
と言うのだ。

これは、在職中である従業員の口座に、過去に会社が積んできた退職金用の掛金を振り込むという事だ。

この事態を想像してほしい。
辞めてないのに、将来貰うはずのお金の一部が振り込まれる。
そしてそれは、退職金ではなく一時収入となるのだ。

18才で就職し20年働いたら、38才。
色々生活においても金が必要な時期に、突然数百万の現金が振り込まれる。
例えば月に平均1万3千円づつ会社が積み立てていた社歴20年の人には、その掛金である312万円が振り込まれるのだ。

最初、嬉しく思うかもしれない。
必要なモノだから、使ってしまうかもしれない。
しかし、これは将来退職した時もらうモノの一部なのだ。
だから、将来の退職金はもらった分だけ減額されてしまう。

そして会社からの振込ではないから、税金は引かれていない。
つまりこのお金は、確定申告の後に相当額の税金が課せられる事を、意味する。
ちなみに勤続20年で退職した場合、800万円まで無税だからとても損する事になる。


この事実が告げられた事で、会場は一層怒号が飛び交う状態となった。

説明も続けられないような状況に陥り、急遽質疑応答となって、誰かがこんな質問をした。


「日本全国、色々な共済組織があるでしょうが、
 今回のような例があったら、どのように対処したのか教えていただけないか?」


それに対し管財人は


「こんな事例は前代未聞でして・・・・」


一同、どっと笑った。

笑ったのだ。


誰もが、こんな馬鹿げた事態が起きるなんて、想像すらしていなかった。
そしてちょっと客観的になって考えれば、笑ってしまうしかない、どうしようもない不景気な時代の産物だとわかる。


やっと冷静さを取り戻した会場では、せめて従業員に直に返すのではなく
別の共済組織に移管できないか・・・という問いで溢れだした。


税法も破産法も、既に過去の産物である。
新しい事態に対応できるものではない。

なのに、裁判所としては明らかに個人の不利益になると解っていても、その法律自体を変える力は持っていない。
何故ならこれは、立法府の仕事なのだ。


裁判所の代表とも言える管財人に法律の変更を求める発言も多くされていたが、
それこそが政治に疎い日本人を表している。

骨太改革も結構だが、こういった事態に即時に対応できる庶民的立法府は、
何時になったらできるのだろう。


変えられる力を持っているのは、政治家ではない。
選挙権を持つ我々なのだ。


と気がつける人が、あの会場に何人居たのだろう・・・。

 
 
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