サイト内検索
AND OR
Photo Essay
Text Essay
Desktop Gallery
Guestbook
Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 

鉄砲水

高校生のころ、子供を連れてキャンプにいくボランティアグループに
所属していた事は、以前にも書きましたが、その活動地が今日事故のあった
玄倉川近辺だったので、その頃の事を思い出してしまいました。
 
電車とバスを乗り継げば、横浜からでも半日もかからずに行ける場所、丹沢。

バイクや車なら、尚更近くに感じられる場所だから、災害なんて起きない
ように考えていたその頃の私は、(災害はもっと田舎の山奥で起きると
勝手に決めつけていた)子供を連れていく前の合宿の時、恐ろしい目に
遭いました。
 
子供をキャンプに連れていく場合、気をつけるように強く言われるのは、
安全確保を最優先する、という事。

引率の場合、先頭と最後尾がで全体のスピードを調整したり、危険な個所
を注意させるための工夫や、目と耳を使って注意する事と笛を使って周知
する技術等が必要になります。
 
バイクで何台か連なって走る場合、先頭のペース配分の難しさと、
最後尾の後続車に対する気配りやブロックの上手い下手で、
ツーリングのスムーズさが違う事を想像していただければ、
解りやすいでしょう。
 
そこで学んだ事は、100名を越す子供というワガママ人種を統率するの
には、安全に対する二重三重の備えが必要だという事。
そしてそれは、団体の中でそれぞれ役割を全うした上で、
共通認識として全員が、自分の担当外の事でも安全措置をとる事を考え、
行動できる必要があるのです。
 
引率訓練や、キャンプファイヤーでのイベント訓練、火を扱う技術、
トイレやゴミの管理、テント等の設営など、慣れているメンバーでも
あらためて一から練習するために、合宿を組むのです。

合宿の夜、雨が降りました。
夜中にたたき起こされて、テントサイトの見回りをするよう言われました。
 
全員が、近くの川、上流の状態、道の状態などを手分けして確認するのです。

大した雨でないからどうでもいいと思ったのですが、道に鉄砲水が出ていると
報告があり見たことのないメンバー揃って見学に行きました。

道の脇に小さな滝のようなものができていて、その滝のところに山から
土砂や草木が流れてきます。
道はそのために少し埋まってしまい、水は止まらずに勢いよく流れています。

「大した事ないな・・」
と呟いたところ、先輩に言われました。
 
「どんな小さな山だって、こんな小さな鉄砲水だって、雨がやまなけりゃ
 どんどん大きくなるんだ。
 今は、道の10分の1位の埋まり方だけど、水は加速度的に増える事も
 あるんだ。 10分もしないうちに道は埋まる事だってある。
 そして、今そこで起きている事と同じ事が俺達の後ろに起きたら、
 もう孤立なんだぞ。」

「そんなものですか・・・」
 
「この水は何処へいく?」

「川ですよ、ね。」

「そうだ、山に降った水は全部川に集まるんだ。 だから見ろ」

夕方見た川とは違う川が道から見えました。
澄んでいたはずの水は茶色なり、水かさはかなり増えていたのです。

「ここで、これだけ水位が上がっていると、下流は凄いぞ。
 上流の水位の上がり方が激しい場合、避難した方がいいかも知れないな。」

玄倉にはキャンプ場がいくつかありますが、川の中にはありません。
増水するとだだっ広い川は全て水に埋まる事を、地域の人々は知っているから
そんな場所には作らないのです。
 
台風がきて大雨が降ると、吊り橋が流れたり、大規模な土砂崩れで
県立のキャンプ場へ行く道が無くなってしまったりと、
結構危ない場所なのです。
 
毎年川岸にキャンプを張っているからといって、今年も大丈夫という保証
なんて無いのが山の天気。
だから、先輩達はそんなチャンスに若手全員を起こし、水の恐ろしさを
教えてくれたのでしょう。
 
危険にたいする備えは、やりすぎて困る事は無いのです。
安全を考えすぎて何も起きなくても、それは良い事だと思うのです。
 
今回の事故はニュースで聞くかぎり、朝から地域住民や県職員、消防団の人
などが、避難するように勧告していたのに、きかなかった故の事だとか。
 
早戸川などの丹沢の川では同じようなな事故が多数おきたようです。
バイクでキャンプする人は、雨には敏感でしょうから大丈夫だと思いますが
せっかくの休みだからとか、スケジュールがそうだからと、危険を軽視
する事は、万一の事故を呼ぶかもしれません。

翌日、合宿を終え、バス停まで1時間ほどの行程を歩いた時、
水位が増し濁流化した玄倉川を見て、昨晩の話がいやでも思い出されました。

「あの吊り橋は、以前この水位よりあと50センチ高いだけの流れで
 壊れたんだよ。」

先輩の話に見た吊り橋の横には、以前流れた橋の橋脚だけが
水をかぶりながら立っていました。

流されてしまった方が、全員無事である事を祈ります。

                         by H

 
 
サイト内の画像・テキスト等の無断利用・転載は禁じます。
Hisashi Wakao, a member of KENTAUROS all rights reserved. / Web design Shigeyuki Nakama
某若夢話は横浜飛天双○能を応援しています。