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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 
 

カフェレーサー

ホイールはスポーク、ハンドルはアップ、
カウルなんてモノは存在しなかった昭和の頃。

レーサーの様に見えるバイクは全てヨーロッパ車で、
特にイタリア車は垂涎の的となっていた。

何故なら当時は、ハンドル一つ交換できないほど規制が厳しく、
ストック状態以外は全て「違法改造」の対象として見られていたからで、
パーツも殆ど存在しないのは当たり前で、費用と根性の掛かり方は半端では無かったからだ。

カフェレーサーという名前を聞いたのはその頃。

ヨーロッパのあるカフェで始まったとされるそのスタイルは、
ミニカウルやバックステップ等を装備した格好主体のドレスアップ。

しかし、改造できない日本では夢のような話で、非現実的な響きで聞こえた事を覚えている。



その「あるカフェ」というのがこの「ACE CAFE」
現在も尚、カフェレーサーの聖地として名を馳せている。

カフェレーサーは本来、イギリスのカフェムーブメントの中から生まれたモノで、
ロックンロールとモーターサイクルをこよなく愛した集団がその起源だと言われている。

ところが当時の日本では、バイクのスタイル名としてそれを扱い、
角張ったタンクやテールカウルを装着してカフェレーサーと称して販売した。

CB400fourはまさにそんなスタイルをてんこ盛りにしたバイクで、
コンチネンタルハンドルまで純正で選べたため、絶大なる支持を得た事は記憶に新しい。




「行ってみたい所があるんだけど・・・」

「何処でも行くぜ! 俺が知っている所なら」

「Ace Cafe って所なんだけど・・・
 ライダーが集まる店で、カフェレーサーが集う・・・」

「お〜知ってる知ってる。
 ノートンとかトライアンフとか・・・
 日本のバイクもドレスアップされて集まってるよ。」

「知ってるんだ?
 何故?」

「そりゃ、有名だからさ(爆)」

コーディネート件ドライバーのKENは、普段は映画関係の仕事をしているから、
ロンドン辺りの細かい地理や店の情報には相当に詳しい。

そして私達のような外国人クルーの案内もよくするからか、
独特の文化に関する事は多く知っているのだろう・・・

とにかく彼のおかげで、普通旅行者では辿り着き難い場所へすんなりと行けた事はラッキーだった。




店内は想像以上に明るく、そして広い。

独特のコントラストがここかしこに見え、一種のゲームセンターにも見えるが、

アメリカンスタイルのダイナーかバーにも見えたりする。

しかし、派手すぎない節度ある感じが、やっぱりイギリスかな・・・・とも思う。

当然ここは聖地であるから、ここに来た証を求める人は多くいた。

私もせっかくだから・・・とバッジを購入したが、この店の中にあるコントラストと同じ物。
白と黒との配分が下品にならないのは、センスの良さなのだろう。



ロッカーズと呼ばれる独特なスタイルをしている人間ばかりが集っている・・・とまでは思っていなかったが、
単なるドライブインのように明るすぎる店内は「聖地」としての何かを、あまりにも伝えなさすぎる。

しかしそれは、1969年に一度店を閉めてしまった歴史が作りあげた空気かも知れない。

昔の店舗が無くても、その場所にその時代の空気を持ち寄れば、
各々の心の中には大事な時間と空気が蘇る。

そんな想いの集える場所としての存在意義は、
長く心に残る想いのために・・・・と考えて良いはずだ。

カフェレーサー達が集う場所であっても、あくまで主役は人間達。

その精神性こそ大事な歴史の一部であって、この店には集合場所として意味しかないのだろう。



午後の日溜まりの中で、ライディングで研がれた感覚を少しずつクールダウンする。
その気持ちよさは、休日の寝坊にも似ている。

そんな心地よさを備えている店は、残念ながら記憶に無い。
だからかも知れないが、この昼間の風景にたまらない魅力を感じてしまった。


いつかこんな空気を演出できる事があれば、
聖地と呼ばれるような重さより、
誰にでも優しくなれそうな店をやってみたい・・・と思う。


勿論「夢のまた夢」ではあるのだが。




                                    Text and Photo by H.Wakao

 
 
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