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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 
 

何も引かない



朝、通勤ラッシュを尻目に、騎馬隊が行く。

バイクも車もそれを追い越す事はできない。
いや、そんな事をする気も無いようで、諦め顔で後ろをついていくようだ。

文化を大事にし、継承していく事がスタイルだからか、
あらゆる物において、古さと新しさが混在する街、ロンドン。

その美しさと落ち着きを懐かしいと思うだけではなく、
失われていない文化に畏敬の念さえ抱いてしまう・・・・・


イギリス風で好きな物、と言えばスーツのスタイル。

滅多に着ない物だから流行は追えない・・という事もあるが、
トラッドは私にとって落ち着くスタイルであり、好きな形でもある。

それはきっと、完成された基本をまだ自分の物にできていないから・・
という根本的な問題が残っているからでもある。




アクアスキュータムがまだ日本ではメジャーでなかった頃、
その名の通りに有名なレインコートを買いに飛び込んだのは86年の事。

コートが欲しい・・・と下手くそな英語で尋ねたら
色々な種類の名前をメチャクチャ聞き取りにくい英語で喋られて、
どうして良いか困り果てた。

こっちが、上手く喋れない事を理解した店員は、
すっと背筋を伸ばしてこう言った。

「Come on Gentleman!」

なんともその言い方と態度が、イギリスだった。


その時は、トレンチスタイルのレインコートと
日本では殆ど販売されていなかったネクタイを買った。


16年後のロンドンは、何の変化も無かったわけじゃない。

ユニクロが出店し、GAPはアイテム別に数店が存在した。

カーナビーストリートも昔の勢いは無く、
しかし建物はそのままの姿で残っている。

つまり、中身は進出する企業によって塗り替えられるが、
町並は何も変わらない・・といった感じなのだ。

ここに、イギリスらしさ・・がある。

無い物は各国から取り揃え、
世界中を我が物にしようとした伝統は、
べつの意味でまた、生きているのだろう。


86年当時、左ハンドル車を見つける事は
あの国においては困難を極めた。

ポルシェもフェラーリも全て右ハンドル。
それがあの国のやり方だったのだろう。

しかし、現在のイギリスはそうではない。
94年の英仏トンネル開通もあってか、
左ハンドル車がバンバン町中を走り回っている。

「伝統を守る」=「来るモノを拒まず」
では無い・・という事か。


いずれにしろ、リージェントストリートの風景を変えようとする企業は、
今のところ存在していない。

そしてそれを望まない人間達は、数多くいるのだろう・・・と感じた。


86年に買ったネクタイは、今も大事に使っている。

赤に金で縁取りされたロイヤルブルーのストライプが入ったソレは、
滅多に着ないワイシャツに合わせて使う。

勿論、特別な時に・・・・

それは、ちっともヘタらず光沢も失われず、少しばかり派手な色のままでいるネクタイを見ると、
東洋の子供のような客を大人として扱ってくれた老店員の顔が蘇るからだ。

スーツはこうして着るんだよ・・・と語っているようなスタイルと、
店の格を無言で伝える真摯な態度。

それは私の「装い」や「振る舞い」に対する「お手本」であり「基本」。
だから、わざわざ白を着るような時には、必ずソレを合わせてからもう一度考えるようにしている。


初心を忘れるな・・・という事だろうか。





                                 Text and Photo by H.Wakao

 

 
 
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