「エンジン組み上がったよ〜」
と連絡が入る。
それは「一晩で500キロのナラシをしてこい」って意味。
会社を定時であがって、ショップへ行く。
暖機の終わったマシンが待っていた。
「じゃ、浜松往復行ってきま〜す。」
「4000以上は回しちゃだめだよ」
わかってるって・・・そんなの
飛ばせないから、浜松で鰻定食食いたくても無理だろな・・・
ソレックスツインチョークを二連装した2TGは、
吹けきらない籠もった吸気音を撒き散らしながら、ひた走った。
浜名湖の渚園でプライベートキャンプがあった。
生憎朝から雨が降っていたが、現地からは「晴れた」とのコールが入る。
久々に250キロほど走るつもりだったから、こっちは天候など気にしない。
東名に乗って雨で混雑する中を割合大人しく走っていたら、競技車両のナラシ運転をふっと思い出した。
ずっとタコメーターだけを睨みながら孤独に耐えて走った夜は、今から思い出せば幸せな一時。
それはナイフの仕上げ研ぎをするような無心に近付く行為でもあり、
アイデンティティの確立を実感するような快感を伴う時間でもあった。
浜松在住の仲間が声をかけ、東は東京、西は神戸あたりからの参加者が集まってくる。
現地集合現地解散方式は、彼等の中にも踏襲されているらしい。
関東と関西の中間に位置する辺りに集う事は、
両方の文化が入り交じる面白さを予感させる。
一日走り続け、星の下で眠る楽しさは勿論の事、
一緒に料理をし、一緒に食べ、一緒に飲み、語り合う時間は、
言葉も文化も融合したその日限りの空気となって漂うのだ。
その空気は、
忙しさの中に忘れてしまう、
だけどとても大切なモノ。
最近、こんな夕焼けを見ていない。
夕焼けをゆっくり見る時間がない。
湖から渡ってくる風が冷ややかで心地よい。
あぁ、この空気も吸ってないや・・・・
250キロを走った後だから、感じるんじゃない。
自然に包まれる場所に居なかったから、よく感じられるんだ・・・と解れば、
陽が沈みきるまでここにいよう・・・と決めた。
夜が更けても、仲間達は集まってくる。
走りきって、辿り着いて、
再会を喜び、初対面を楽しむ。
ホーム開催イベントでは得られない楽しみは、
アウェイ参加でよく見えた。
今宵は心ゆくまで味わっておこう。
この空と、この風と、この空気の暖かさを。
Text and Photo by H.Wakao
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