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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 
 

現像

35ミリレンズを手に入れた。

必要があって急遽購入したのだが、風景撮影には今ひとつの画角だ。
しかし、懐かしい感じがして、帰り道に撮影をしてみた。



行きつけの「KORAN」で珈琲を飲みながら、暗くなるのを待つ。
F値が2というレンズだから、開放でどんな感じかも知りたかった。
目指すは路地裏の風景か・・・・。


思い出せば子供の頃、初めて使ったカメラは、
オモチャに毛が生えたようなものだった。

ブローニーという黒紙に巻かれたフィルムを使うそれは、
巻き上げは裏蓋の小窓を開けて、番号を確認するまで巻き上げる原始的なもの。
(撮影枚数はその数字でわかる・・・というヤツだ)

シャッターは「カッチン」と音を立てて落ちる、単一スピード。
絞りも晴れと曇りの表示しかない。
もちろんピント調整なんてできない、固定焦点式
それでもちゃんと写る、立派なカメラだった。

フィルムは当時の私にとってはとても高価で、
何かのイベント(年に何回もないが)がある時だけ買ってもらえる物だったが、
自分の撮ったものが写真になる事の面白さを、十二分に教えてくれるモノだった。


初めてフィルムを現像に出した日は、忘れられない。
待ちきれずに、何度も写真屋に顔だしては店主に怒られる。
それでも待ちきれなくて、引換券を枕元に置いて寝た。

撮った写真を写真屋の紙袋から出す時、
期待と不安で恐かった。

シャッターを押した瞬間が、そこにある。
大事なフィルムだからこそジックリ待って、
気持を貯めに貯めてシャッターを押した瞬間が。

それがどんなに下手クソな写真でも、
あの時の私には魔法だった。


以来、風景を切り取る面白さに夢中になったのは言うまでもない。

フィルムの入ってないカメラを持ち出しては自転車に乗って遠くに出かけ、
記憶というフィルムを使って撮影に明け暮れた。



昔、多くのコンパクトカメラが装着していたレンズの画角。
だから懐かしいと思ったのではない。

子供の頃の風景の記憶と、
このレンズを通して見える物が似ているんだと気付いたのは、
新しい「山東」のある路地を狙った瞬間だった。


明かりが少なくて暗かった、あの頃の町並。
どこかの家から流れてくる晩ご飯の匂い。
暗くなる前に帰れと言われていたのに、明かりのついたお店が綺麗でずっと見ていたっけ。

中華鍋をカンカン鳴らしながら炒める音も、赤や黄色を使った派手な外観も、
食欲をそそる香りとともに記憶に焼き付いている。

あの頃、外食は贅沢中の贅沢で
中華料理屋はもっとも身近な外食場所として存在しながら、
一度も家族で入った事はなかったと、思い出した。


豊ではなかったけど、
何かいつも欠けていたけど、
今よりたくさん輝いて見えた、あの頃。

心は今より健やかで、しなやかだったと感じるのは、
何故だろう。




                   [Nikon F3 /35mm/f2/ ASA400 1/15秒露出]

                              Text and Photo by H.Wakao

 
 
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