朝、プラットホームを歩く。
工事中のため、合板が敷かれている。
電車待ちの人々は、降車駅に合わせて足早に移動している。
いつもと変わらない、朝の風景。
明るくなれない心。
靴音がうるさくて、点字ブロックの上を歩いてみる。
少しだけ、マシになった。
ホームの中ほどまで来たら、先には殆ど人がいなくなった。
一人きりで歩くホーム
今の仕事に似ている・・・と、すこしひねながら。
「朝からこれじゃいかんなぁ・・」
と思って、立ち止まる。
目の前を続く点字ブロック。
その上に立っていて、何の気なしに思った。
目を瞑ってみよう・・・・
革底のブーツは、点字ブロックの凹凸をちゃんと伝える。
歩いてみたら、意外に歩いていける。
へぇ・・・、こんなモノでも凄く役に立つんだ
どんどん歩いてみる
しかし、真っ直ぐ歩いているはずが、いつの間にか蛇行する
そして足は、点字ブロックを少し外れてしまった。
しかしブロックとホームの段差が
ブロックの方向と位置を上手く伝える。
「そうか、かえって端を踏みながら歩いた方が、歩き易いんだ・・・・」
つい独り言を言う。
毎日見ているモノに気がつかない事って多いものだと、
すこしだけ驚きながら歩き続けた。
どうにかふらつかずに歩いていて、
突然、まったく突然
点字ブロックをロストした。
あれ?
もうそんな所ま来ちゃったか?
ホームの端までは、
まだまだ有ると思ったが・・・・
目を開けてみたら、足は点字ブロックの上にあった。
ちょっとだけ色の違うブロックの上に。
このホームは工事中で、補修用に柔らかい材質の物が
こうやって部分的に使われている。
改めて踏んでみると、明らかに感触が違う
と言うか、本来の物より柔らかい。
だから、目を瞑っていた私は、
ブロックが無くなったように、感じたのだ。
例えば、時間を凝縮した「写真」の世界は、
見方の根本を変えるという方法を、具現化してくれる。
だから、見方を変える・・・という方法は、得意だったはずだ。
しかし・・・・
点字ブロックを見ながら踏んでみれば、同じように凹凸を感じる。
でも、目を瞑っていると全然違うのだ。
色も材質も違う事が解っていて、
明らかに違う物だと認識していても、
本質的に違う物だという事は、
解らない・・・・
見える事が当たり前の感覚は、
見えない立場に立つ事を、拒否しているからか・・・。
当事者にしか解らない事。
それを伝える事の難しさに、いつもいつも悩まされているのに、
当事者の立場に立たないで
どうして説明できると思っていたのだろう。
偶然の思いつき
とても嬉しかった。
氷川丸2001 [Nikon F3 /20mm/f2.8/35秒露出]
Text and Photo by H.Wakao
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