海沿いの道を走ると、
一休みしろよ・・・と言いたげな店があったりする。
「フィッシャーマンズ・カフェ」と名付けられたその店は、
長者ヶ崎の駐車場に道を挟んだ反対側で営業していた。
コーヒーを啜りながら駐車場を眺めると、バイクが集まってくる。
そう、今日は満月の夜。
月に一度の定例ツーリングの日。
深夜0時、長者ヶ崎駐車場に集合。
砂浜にて、その日限りのちょっとしたイベントをする。
現地集合・現地解散が私達のルール。
マイペースで来て、マイペースで帰る。
スピードもルートも、自分が一番楽なように。
今回は、大鼓の大倉正之助氏が、浜で囃子を演じた。
能の世界に生きる彼は、バイクという接点だけで参加してくれる。
(毎回というわけではないが)
彼は満月の下で、浜の聴衆に向かって演じる。
一期一会を大切にするように・・
すれ違うライダーに手を上げるように・・・。
月の光、自然の音、潮騒、そして鼓の音が木霊して、聴く者の魂を揺さぶる。
昔、拡声装置の無かった時代には、
こんな自然と楽器との融合があったのだろう・・。
自然の力を味方につけた大鼓は、
心を振るわし、洗い清め、そして何かを満たしていく。
道路からの雑音など、何も感じない、感じられない。
そしてそれは、たまたまそこに通りかかった人達さえも巻き込んで、
不思議な空気と時間を築いていく。
たった一つの篝火を境に演じられた大鼓。
それは満月の日の深夜、きっとこの場所で、
これからも何回か、演奏されるだろう。
Photo by H.Wakao
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