街は、「今世紀最後」を合い言葉に、なんだかとても浮かれている。
来週はクリスマスだからか、先週末あたりからどこもかなりの人出になっている。
元町の貴金属店は、12月の2週間で半年分を売り上げると聞いたが、
週末の賑わいを見ているとあながち嘘とも言えないような気がした。
クリスマスプレゼントを用意して、着飾ってレストランに行って、
特別な日を二人で楽しむのは素敵だと思う。
でもそれは、なんだか雰囲気に踊らされている子供っぽい楽しみにも、感じる。
仕事がら雰囲気を盛り上げる側にいたせいか、
その手のイベントにはどうしても冷たい視線を投げる事が多い。
大好きな人と二人きりでいるためには、イベントより仕事を切り上げる方が大事だったりするからか(笑)
私は、自分はいつまでも子供だと、感じている。
一人きりでバーで酒を飲んでも、スーツを着ても、高校あたりから何も変わっていないとしか思えない。
それでも、髪が細くなったり、肌が荒れてきたり、目が霞んできたりして、
肉体的な衰えはじゅうぶんに受け入れているのだが、精神的にはちっとも大人になりきれない。
(社会的立場も責任も、しっかり大人の立場になっていても)
ところがある日「自分は他人から見て大人と見える」と、気がつけた日が訪れた。
その日会社で、部下と上司からどうでもよいグチや無理難題を押しつけられ、珍しくスーツを着たまま一人で飲みに行ってしまった。
(私は、会社では必要な時だけスーツに着替える(笑))
行きつけのバーは珍しく混んでいて、バーテンダーも走り回っていた。
キープしてあるボトル達を眺め、今日のお気に入りとして「グレンリベット18年」を指名した。
テイスティンググラスでストレートを楽しむ。
チェイサーはミネラルウォーターにして、つまみはピクルスにした。
(酔っぱらいたい時は、ボイラーメーカーにするのだが(爆))
飲んで忘れるつもりはさらさらないけど、酒瓶を眺めながら飲んでいると、
険しい目になっていくのが自分でもわかる。
いい酒じゃないと自戒の念をもちながらも、考える事はつまらない事ばかりだった。
美味しいお酒はゆっくり楽しむに限るから、目を瞑り口に含んだモルトが醸す香りを聞き、
干した後に吐く息で余韻を味わう事に専念した。
1999年にボトリングされた18年物は、1980年に造られた事になる。
20年前といえば会社員として駆け出しの頃だな・・・と、その頃生まれた酒を飲みながら思い出にふける。
と、突然隣の席から声がかかった。
「随分美味しそうですね。 何というお酒ですか?」
バーのカウンターで、見知らぬ人に声をかけられたのは初めてだ。
見れば、私より10才以上年上の紳士だったが、
飲んでいる酒は「オールドグランダット」というコテコテのバーボンだった。
若造に見える私がモルトで、明らかに貫禄のある紳士がバーボンというのがちょっと面白い。
二人の酒飲みはお互いの趣味を愛でつつ、新しい酒との出会いを語り合った。
「横で見ていて、あまりに美味しそうに飲むから、どうしても飲みたくなってしまいました。」
「1年に1回、いや、ここのところは2・3年に一回しかない、素晴らしい出会いです。」
「こんなに素直で、香りの高いお酒は初めてです。」
なんだかそんな事を彼は言っていたのだが、
私は何故、彼が私に声をかけたかが不思議でならなかった。
そう、いつもはソッポを向かれるジーンズにベスト姿。
ちょっと見、ガキにしか見えない格好なのに、飲んでる酒がシブイって所が、自分的にも好きだった。
だが、今日はスーツ。
そして一人。
ゆっくり酒瓶と話をしながらストレートでウィスキーを干す姿は、
本当に美味しいと感じさせる表情で飲む姿は、
10年以上の人生の先輩にとって話しかけやすい対象として見えたという事、なのだろう。
着ている物で判断するなよなぁ・・と思いかけて、ふっと気がついた。
彼から見て、話しかけて良いと認められた、という事を。
勘定をするとき、店の人は彼を「社長」と呼んでいた。
なるほど、貫禄もあれば落ち着きもあるわけだ。
そして、お互い名乗りもしないで、ゆっくり話ができた事は、
それがお互いに暗黙のルールのように一期一会を大切にした、とういう事に思えた。
どんな物を着ても、どんな物を持っても、どんなに老けても、だから大人と見えるわけではない。
他人が認めてはじめて、大人としてのパスポートが手に入るのだと、思う。
その日は、
私が他人から大人として認められた、記念すべき日になった。
Text and Photo by H.Wakao
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