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Malt Crazy
道楽もほどほどに
日記的雑感
 
 
 

往く路は風-2


その日、気温は38度を超えようとしていた。
朝8時15分には、公称3万人と言われた式典参加者が黙祷し、
「神の国発言」で有名な首相が挨拶文を読み上げる。

2000年8月6日、広島。
そう言えば14年前も暑かった・・・・・。

参列者が献花を終え会場のイスも取り払われた頃、私は平和記念公園へ足を向けた。


新たに没した人の名簿を収めた記念碑に向かい、合掌する。
耳に聞こえるのは蝉の声。
そして、平和を訴えるアジテーションや、ストリートミュージシャンの歌・・・・。

資料館の展示は、妙にまとまって見やすくなっていたが、以前に比べて悲惨さが前面に出ていないように感じる。
それでも、個々の資料の前に立ちつくす人、人、人・・・。
原爆ドームの模型の周りに核実験等に対する抗議文が列になって貼られているが、
今年新たに出された3枚が残り少ない壁を狭めていたのが、印象に残った。

NHK広島は一日中平和記念公園にカメラを出し、その他の民放や制作会社も山ほどのテレビカメラを持ち込んでいる。
夜の、灯籠流しを撮るためだろう。 原爆ドーム前の川岸には昼だというのにズラッとテレビ用の三脚が場所取りよろしく並んでいた。


灯籠流しは夕方6時から始まった。
この日流された灯籠は一万余。
赤・白・緑の三色の灯籠の中には、蝋燭のような灯りが入り、全体的に赤い光となって川を埋めていく。

原爆の犠牲となった人は20万人と言われている。
火傷を負って耐え難い渇きを癒すために川へ向かった人達の人数は、
この灯籠の数の数倍に達した事は想像に難くない・・・。

昔訪れた時、私は取材対象のワークショップに付き合っていて、この風景を見られなかった。
映像を切り取り、つなぎ合わせる上ではとても欲しい画だったが、スケジュールが許さなかったからだ。
だから見てみたいと思っていたのだが、目の当たりにするとその数に圧倒されてしまう。

昼間見た広島は、以前に比べると穏やかだった。
どこにでもあるような地方都市の1シーンが、当たり前のように目の前にあった。

もう、人々の想いを、その空気の中に見いだす力を失ってしまったのだろうか・・・と、
少しだけ寂しくもなったが、55年の歳月が傷跡を少しずつ昇華させたのかもしれない、とも思った。
しかし・・・・。


今流れている灯籠は、川を綺麗にするためのイルミネーションではない。
安らかに眠って欲しいと流される、それぞれの家族の想いなのだ。
道を埋め尽くす人々、鎮魂歌を歌うグループ、川縁ではコンサートも開かれている。
(チェリストのヨー・ヨー・マが、飛び入りで2曲演奏した。)

そう、どんなに綺麗に直したところで、失った物は取り返せない。
亡くなってしまった人達が生き返るわけでもなかった。
それは、この夥しい数の灯籠が、その数の何倍かの悲しみを乗せて流れている事を見て、静かに心に浸みてくる。



恥ずかしい事だが、20万人の犠牲者の内、その1割にあたる2万人が、朝鮮・韓国人だという事を初めて知った。
最近になって平和記念公園内に設置できるようになった慰霊塔は、ハングルで書かれていて意味がわからなかったが、
旧日本国の都合により、母国から労働力として連れて来られた民族の想いが、日本語や英語でも標されている。
何故、同じ犠牲者のための慰霊碑が、日本人では無いという事で区別(差別?)されてきたのかはわからない。
日本の国家的暴力の被害者でもある彼らを、何故戦後の日本はそうしたのだろうか。

横浜は、すでに多国籍化している。
特にアジア系外国人の数が多い。
その中で、古くから日本にいる中国人と韓国・朝鮮人は、すっかり溶け込んでいてわからない。
だから、その慰霊碑を見て、その抗議文を読んで初めて、この国の罪の重さを知ったりする。

このところ、色々な事の変化のスピードが、どんどん早くなっている。
だから、基準点を持たないと、自分のラインが解らなくなると感じていた。
高速道路が整備され、たんたんと走り続ければ、あっけなく辿り着く広島。
片道900キロに満たない距離は、信号の無い一方通行の道で楽に圧縮されてしまった。
それでも、違う位置に立ち、忘れてしまいそうになっていた感触や感覚を思い出し、自分の居るべき位置を客観視できる。
21世紀に持っていくモノ、私にとっては何なのか、ちょっとだけ解った気がした。



              Text and Photo by H.Wakao
              Hirosima 2000     
 
 
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