|
Sudden death
|
その男は、私の昔のバイク仲間だった。
大きな身体と端正な顔を持ち、頭脳も明晰だった。
見た目の2枚目ぶりには似合わず、廻りを笑わす事が大好きで、
女より男にもてるタイプだった。
決して女に興味が無いわけではないのだが、
浮いた話とは無縁で、いつも「彼女が欲しい〜」と呟いていた。
諸般の事情により、彼は大学に進学せず外語学校に入学した。
成績は優秀だったようだ。
卒業後、そのままそこの学校の講師として入社してしまう。
白人の血が入っている・・・と言われればそう見えるルックスだから、
外語学校としてもそこを考慮したんだろうと、邪推する。
時は流れ、彼はバイクを降り、仕事に専念する日々を過ごしていて、
素敵な出会いをしたようだ。
あっという間に話は進んだようで、結婚式に呼ばれる事となる。
もう10数年前の話だ。
その頃、すでに若年寄と化していた私は、
お祝いを出すのに苦労するほど、仲間や友達に式に呼ばれ、
色々なパターンを経験していたのだが、
オーソドックスな式でホッとしつつ、彼らしい式だと思っていた。
(とんでもない格好で式に出たり、出させられたりする式が流行っていたから、
妙に安心した事だけを覚えている。)
親・親戚・仲間・会社関係・・・・、諸々の人々に祝福され、
彼らはとても幸せに見えた。
式も終了し、お決まりのお見送りがあり、
彼らは僕ら一人一人に声をかけてくれた。
自分の番がきて、一通りの祝福の言葉を投げた後、
何故か自分でも考えていない言葉が出た。
「君は、生き続けなければいけないよ。
君の人生は、もう君だけのものではない。
しかし、他人の人生に責任なんて負えないのだから、
君は君自身の人生にまず責任を持たなきゃいけないんだ。
そのためには、生き続けなければいけないよ。
たとえどんな事があっても生き続ける、と思って頑張れよ。」
大きなお世話だと思う。
彼がどう生きようと、それは彼の問題なのだ。
そしてその時、彼はもうバイクを降りていたから、
突然の死の訪れの可能性は、自分よりも遙かに低いはず。
なのに、私は彼に「生き続けなければいけない」と意見した。
何故だか解らない。
言うつもりもなく、言葉は意味を持って飛び出した。
後にも先にも、そんな言葉を手向けた事は無い。
だから、余計によく覚えていた。
新潟のスキー場は、東京から行くには便利なのだろう。
車にスキー板やボードを乗せ、関越から先はどんどん渋滞していく。
彼もそんな中、この連休でスキーに行っていた。
新潟の美味い酒を毎晩飲み、吐瀉物が喉につまり、
呼吸不全で彼は死亡した。
呼んだ救急車は、渋滞に阻まれ到着に1時間もかかったという。
彼の命には間に合わなかった。
私より確か5つは若い。
死ぬには若すぎる。
しかし、それも運命なのだろう。
死は突然やってくる。
本人の都合とかに関わらず。
バイクに乗っていても、そうでなくても、
次の瞬間に死んでいる可能性はあるのだ。
だから、その事を意識しているか無視しているかで、
当人にとっての人生の密度は、大きく変わってしまうだろう。
少なくとも私は、そう感じている。
誰もが必ず死ぬのだから、驚く事はないのに・・・・。
なんだか、彼が若くして亡くなる事を
以前から無意識に知っていたようで、
無性に哀しかった。
安らかに眠れ、山本。
Text and Photo by H
|
|
|